4-9 押し手の力学的作用
1)角見の働き
弓を発射台に取り付け、そのまま機械的に矢を発射すると、矢は{弓の薀蓄}で述べたように、前上方向(斜め45度方向)に跳びます。そこで発射装置に角見の働きに相当するように捻り力を与えますと、矢はだんだんと的に近づいてきましたが、まだ前枠のあたりまでで、的中には至らない結果となりました。それで、離れの瞬間における角見の作用の変化率についても研究されていましたが、それでも至らない結果となっていました。
発射台の装置ではいくら角見の働きに見合う捻りを効かしても弓は不動ですが、実際の押し手は離れの瞬間に押し込みにより運動し、弓返りしながら矢が分離されます。日置流では離れで弓は4寸、勝手の肱は8寸開くと云われています。押し手は4寸開いて、矢筋、矢通りに一致します。このような押しての働きは、発射装置だけでは再現できないものでしょう。
2)押手のモーメント
押手の力は弓道書では押す力と角見の作用しか書かれていませんが、力学的に見れば、X、Y、Zの3方向の力と3つの軸回りのモーメントの合計6個の作用となります。
ここで、20キロの弓を引くものとし、押手の腕の鉛直面の角度が約10度、水平面での角度が約10度と仮定すると、X方向の押す力は弓と釣り合うので20キロとなり、Y方向の横に振る力(振込み)は
20×sin10=3キロ
となり、Z方向の下に抑える力も、3キロとなります。また弓の幅と矢の幅との合計の半分を2cmとすれば、弓を捻る(Z軸回りの)角見のねじりモーメントは
2×20=40kg・cm
となります。Y軸回りの上押しのモーメントは押し手の虎口と中指の間を7mm程度とすれば14kg・cmとなり、またX軸回りの絞り込みのねじりモーメントは、勝手の捻りに見合うものであり角見のモーメントのsin10程度とすれば、7kg・cmとなります。
しかし、力の作用に三角関数などとやっていられないし、これでは全く判らないので、これらの働きは、主になる働きに対して、矢筋方向に作用させる、弓に直角に当てる、親指を弓の角(角見)に掛けて伸ばす方向に作用させる(角見を効かす)、あるいは上押しを効かす、絞り込みを効かすなどの表現によってモーメント成分を適正に扱えるように教えています。
櫻井 孝 | 2003/02/17 月 00:00 | comments (0)
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