home >  弓道四方山話 > 巻の四 「父の巻」

4-8 押し手は押すの、受けるの

押し手はどこまでも強く押せといい、いや受けていればいいといいます。どちらが正しいのですかと初心の方は疑問に思うかも知れません。これはどちらも意味のあることです。

私の考えでは、以下のように段階で変わってくると思います。

1)最初は押手を強くすることを学ぶべきです。弓の薀蓄で述べたように、日本の弓では矢を右に番えるので偏芯から、スライスするようにできています。また手や顔を打ったりするので、押手の角見を効かす方法を体で覚える必要があります。これはグリップのコツを掴むことと同じであり、ゴルフやテニス、野球、剣道などの他のスポーツでも共通です。「手の内を明かす」と云う云葉があるように重要なポイントです。また左手は右手よりも弱いので、強くする必要があります。

2)しかし強く押そうとすると、左肩が突っ張って、押手の腕と両肩が一直線になり、右肩が逃げて、両肩の線と矢の線が平行でなくなり、三重十文字が崩れる傾向が多くなります。こうなるといくら強く押しても右肱がどこまでも引けますので右側が強くなり、矢は前に飛びます。

3)突っ張り肩を直すためには、押手は強く押せるような手の内と構えは維持しながらもむしろ受けるようにするのがよいです。すなわち、柱に綱を掛けて引っ張るときのように、強く引けば強く抵抗し、弱く引けば弱く応えるようにすることであり、決して押し手を弱くしてもいいということでは在りません。上級者は大三から引き分けで両肩の付け根がどの位置にあるか十文字に絶えず気をつけています。

4)両肩の十文字が判るようになると、もう一度押し手の強さが必要になります。もう1つ上の強い弓を目指す時、「如何程も強きを好め押す力、引くに心の在ると思えよ」の口伝が示すように、絶えず緩まず、勝手に釣り合う押し手であり、父母の和合の心をこめた中筋で釣り合い、割る離れの押し手です。

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