home >  弓道四方山話 > 巻の弐 「地の巻」

2-17 続・高さの狙い

高さの狙い、および左右の狙いについては地の巻にいろいろ書きましたので、重複してしまうかもしれませんが、ここでは狙いの物理的現象と視覚的現象(的付けの高さ)、射技問題について改めて書いてみます。

1)物理的現象

矢飛びの高さについての物理的現象は、矢は重力の影響を受けて、野球のボールやゴルフボールと同じように放物線(アーチ形)を描いて飛びます。これは遠的を行うと良く判ります。

的が矢筋の高さ(頬付けの高さ)と一致していれば、矢は水平線に対してアーチクラウンの高さ(ライズ)の2倍の高さの接線角で必ず上向きに発射することになります。

実際には、的は地面から30cm程度の高さにありますので、頬付けの高さとは身長にもよりますが1.2m程度の高低差が生じます。これを直線に結んだときの中央のライズはその1/4の0.3m程度となります。

たとえば、20キロ程度の弓で28mの近的を行う射手は、ちょうど水平かやや下向きとなるときに的中しています。これはこの1.2m程度の高低差によって水平の矢乗りのとき、的が水平の高さにあるとして変換すると、中央で0.3mの山なりになるのと同じであると解釈できます。このときの接線角(矢の角度)は 0.3×2/14m=0.04 となり、1mで4cm程度の勾配に相当します。

同じ人が60mの遠的を行う場合にはライズは距離の2乗に比例するので、0.3×(60/28)2=1.4m となります。放物線の接線角は2倍となりますので、高さの矢乗り角度は 1.4×2/30=0.09 となり、1mで9cmの勾配に相当することになります。

矢の初速は弓の強度(バネ常数)、矢束に比例し、矢の重量に反比例するので、これによっても狙いの高さは異なってきます。

2)高さの狙いの視覚的現象

高さの狙い(矢摺り籐に写る像)は直線の幾何的要素とアーチライズの要素との和となります。直線関係では矢摺り籐に写る位置は眼と頬付けとの高さの差(顔の長さにもよりますが、口割では約7cm)とほぼ一致するはずです。したがって頬付けの高さは狙いに敏感に影響します。さらに厳密にみれば、この寸法は眼から的までの距離(28.0m)と弓から的までの距離(27.5m)との比例となるので、近的では殆ど影響しませんが、巻き藁のように近い時には変化します。

山なりのライズの影響は、上述のように的の高さを水平とする時のアーチライズの接線勾配による高さが、矢摺り籐に写る寸法です。頬付け(眼)から弓までの長さを50cmとすれば、50cm分の高さを直線関係の寸法(7cm)から差し引くことで決まると考えられます。

したがって弓が無限に強ければ近的での高さの狙いは、握りの位置から7cmとなり、20キロ程度の弓であれば 7−4×50/100=5cm 、10キロの弓では 7−8×50/100=3cm となります。

同じ人が同じ矢を使用して60mの遠的を行う場合の的付けは、7−9×50/100=2cm となり、10キロの弓ならば 7−18 x 50/100=−2.0 cm となり手の中に隠れますが、もちろん軽い遠的用の矢を使用すれば的付けは少し高くなります。これらの計算値は実際に行っている的付けとほぼ一致しています。

道場の床と的の高さとの高低差については、極端にこれが違わない範囲(十文字が形成できる)であれば、的と弓と眼との視覚的関係は相対的に変わらないので、矢摺り籐に写る的付けは全く変化しないはずです。このことは立射の場合とつくばい(割膝)の場合で高さの差が60cm程低くなっても高さの狙いが変化しないことで、証明されます。

3)射技の問題

以上の議論は全て標準的な射法、射技で行った場合のことであり、これが狂うと矢の高さは狂ってきます。

* 矢番えの位置が上下に狂っている場合
* 押手が極度に上押し、下押しの場合
* 懸けの親指の不正、捻り過ぎ、篦撓いがあるとき
* 胴造りの不正。かかる胴と退く胴(遠的では退き胴が飛ぶ)
* 物見がかかる場合と退く場合(顎が俯く、上がる)

これらはいずれも言わずと知れた五重十文字の狂いであり、矢飛びの高さが狂います、この他にも以下の悪癖が狂いとなります。

* 会の五つの緩み(両手の緩み、両肩の緩み、胸の緩み)
* 六凶の離れ(前離れ、送る、戻る、寄る、上がる、下がる)
* 三病(早気、もたれ、緩み)

以上高さの的付けについていろいろ書きましたが、実際には繰り返して練習すれば、自然に定まってくることですので、あまり意識する必要はないでしょう。

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