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1-17 弓道の修行と彫刻の類似性

弓道の修行は粘土の彫像つくりに似ていると思います。

粘土で彫像を作る時(やったことはありませんが)、最初は柔らかくて、ぐにゃぐにゃしていてすぐに変形してしまうのに、次第に硬くなってきます。そうすると今度は逆に形を直そうとしても思うようにならなくなってしまいます。最初の段階できちんとした土台つくり、背骨や骨格つくりが肝心です。

弓道も最初の段階では、肩が上ったり、体が捻れて前後したりして射形が思うように決らないものです。弓道の土台は三重十文字であり、縦横十文字の規矩が基本の骨格ですので、ともかく体を真っ直ぐにすることが最初の条件と言えます。

古書の五行陰陽道の5輪砕きでは、この段階は「土体黄色中四角」と言われ、土台は四角くがっしりと造り、前後左右に偏らず総体の中央で、体を直くするものであす。

しかし、時間が経ってくるとだんだん固まってきます。これが第2の段階です。

粘土細工でも、正しい土台、すなわち「外体なおく」ができないまま固まると、この彫像は仕上げるのが困難になってきます。曲がった体型は、柔らかいうちなら、一寸矯正すれば直りますが、固まってしまったものに、無理に力を入れて矯正しようとすると、ひび割れてひどい場合には壊れてしまいます。

土台ができて少し固まってきたら、また粘土の肉、皮をつけます。これは少し多めにして十分に行き渡らせ、付けすぎたら削って修正することができます。骨皮筋衛門のじいさんや梅干婆さんの彫像ではおぞましいので、ここはやはりロダンの彫像のように豊満な肉体美でなくては面白くないでしょう。

この段階は「水体黒色北円形」と言い、その心は、水が隅々まで染み込んで行く様子であり、更には「木体青色東団形」であり、木々が真っ青に生い茂り一杯に膨らんだ様子です。

つぎに、第三の段階となると射形はもはや固まってきて、あたりも安定するようになってきます。そうなると、もう手荒な矯正はできないので、その欠点をじっくりと観察してサンドペーパーで仕上げるように微調整とすべき段階となります。

自分のように古株になると、もうすっかり硬くなってしまい、どこか歪んでこり固まってしまったものが癖と呼ばれます。がちがちに固まった癖は容易には直りません。

しかし、癖も悪性の癌でなければ、あせらず根気良く仕上げてゆくことで、良性の個性としてに改良することはできるでしょう。

不幸にして、土台が歪んだまま、固まってしまった場合、射形をこねくり回して正しい射に戻すには非常に苦しくて、苦難の道にさまようことになります。

だから、初心者の方はこのように遠回りをしないで、真っ直ぐに正しい形を身に付け固めてゆくことが肝心であり、それには正しい理解が大切であると思います。

ここでいう、「骨、肉、皮」は3体と呼ばれ、骨法を形付けるものです。強き骨に、強き肉、強き皮の組み合わせの射となるように努力することが肝心と思います。あせらずじっくりと鍛錬することが、肝心であると思います。

ようするに、初心者の内は体が柔らかいけれど、次第に硬くなってくるので、個人差はあるが、初期の段階(1、2年の間)に弓道の基本を確実に身に付けることが大切であると思います。そのためには弓道教本などをしっかり読んで、射法の理屈を理解して、修行するのが望ましいです。

そして、力で弓を引くのではなく、筋骨に当てはめて引く要領を掴む(コツを掴む)ことが、肝心です。

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