home >  弓道四方山話 > 巻の壱 「天の巻」

1-13 位なりの位とは

射法訓の「金体白色西半月の位なり」の位とは何かを考えてみました。

この他に伝書には「莚布絹綾錦の五つ」、「五輪砕きの五位」、「十二字五位」など五つの位に拘った言葉が有り、位とは「段階、品格、練達度」を示す言葉であることは間違いないと思われるが、一寸意味が通じにくい点もあります。

「莚」は織物の基本であり、縦縄に横縄を織り込みますが、凸凹が大きく荒いものであり、初心者の段階を云います。布になるときちっと織り込まれ、着物にもできるようになりますが、ザラットしたもので中級程度でしょう。そして絹の段階、綾の段階、さらに錦の段階になると、きめ細やかで、上質で、至極の織物であり、射では錬士、教士、範士のように練達の段階を示し、上記のように弓道修練の5段階の位をさすものと解釈できます。

ただし「絹綾錦の三位」ともあるので、ランクの低い莚、布は位とは云わないのかもしれません。

五輪砕きについては、上述のように修行の練達度の五段階を意味する場合と、天の巻の「五行陰陽道」に書いたように、一つの行射の中での五段階を五身(弓道八節に相当)に当てはめて説明する場合の2種類の意味があります。

この五身の第一は「土体黄色中四角」の位であり、「目中て」と呼ばれ弓道八節の「足踏み、弓構え、胴造り」のことを言います。この段階は「大地を踏みしめて、体の中央に心をおき、真四角にゆがみのないように」と言う解説があり、射技の基礎を意味しますが、決して初心者という意味にはならないはずです。そして、その第五が「金体白色西半月」であり、「見込み=残身」を説明するとともに、射品射格が練達の域を示す言葉として解説されています。

しかし、「西半月--」が最高位の練達度であるとすると、練達の士が足踏み、弓構え、道造りをするときは、何の位ですかとなり、矛盾となります。

十二字五位とは「父母、君臣、師弟、鉄石、晴嵐老木」の十二文字で、5段階を云います。第一は「父母等しければ、子の成人急なり」であり、「父母は左右、子は矢なり」と補足説明があります。また弓道教歌に「剛は父、繋(かけ)は母なり、矢は子なり、片思いして矢は育つまじ」とあり、左右均等に引き分けないと矢が真っ直ぐに飛ばないよと、艶めかしい言葉で教えています。

第二では「君臣直なれば、国ゆたかなり」であり、「君臣は父母と同じ、国はまた子なり」と同じ意味であることを補足説明しています。これは安土桃山時代の教歌ですから、「良い君主に良い家臣が信頼して力を合わせれば、国は栄えるように、強い押手にふさわしい馬手が釣り合えば、良い射が生まれる」と私流に解釈します。

第三の「師弟相生ずれば、諸学長高し」とは、「師は弓なり弟は身なり、弓を師と言う意なり」とあり、「先生の教えをよく理解し、弓の性質あるいは射技の本質をよく勉強すれば、修学が進んだ段階になる」と解釈できます。

第四の「鉄石相克して、火出こと急なり」は、射法訓でお馴染みの句です。「射形の強みにかけて云えり」と補足しています。

そして第五の「晴嵐老木、紅葉散り満ちて冷し」は、「紅葉重ねという儀なり」とあります。これについては「朝嵐、晴嵐の嵐とは」に書きましたが、「紅葉重ね」と言うのは日置流のように「押手手の内」のことではなく、達人のみが修行を積み重ねて最終的に達成しうる段階のことです。「夏には青々と茂っていた楓の老木が、涼しげに吹き抜ける一筋の秋風に、紅葉がさっと散るとき梢は全く揺るがず、りんとしている」と私は解釈しています。

この第五の段階は究極の達人の段階であることは間違いありませんが、その前段は何れも低い段階を云うものはなく、射の有るべき規矩を示しています。

以上のことから、「位」と言うのは、現代で言う段階、クラスではなく、練達の域、あるいは免許を与える段階、高い到達レベルのことではないかと思われます。

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