home >  弓道四方山話 > 巻の七 「十文字の巻」

7-32 十文字射法について その2 〜三重十文字のこと〜

「妻肩(めかた)と上肩(うわかた)を地縄に重ねよ」と云う教えがあります。地縄と云うのは建物を建てるときの測量に使う張糸であり、的から地縄のように真っ直ぐに引いた足踏みを云います。妻肩とは両腰骨のことで、上肩は両肩のことです。

つまり、「両腰の線と両肩の線を足踏みの線上に重ねる」ことであり、縦軸(重心軸)と合わせて三重十文字と云います。これは誰でも頭で理解できる極めて単純な基準ですが、弓の力がかかってくると弓に押され弦に戻され、それらに負けまいとして頑張ると体が歪んで十文字を保持するのが難しくなります。

1.三重十文字の歪み4種


1)弓構え(取り懸け)で狂う
馬手はユガケを用いているため両腕の形が非対称となり易い。とくに初心者が新しいユガケを使用するとき、ユガケの控えの腰革が硬いため、右腕首が直線的になって円相の構えが歪み、両肩の線が左に開き(逃げ)易い。

2)受け渡しで狂う
打ち起こしから大三への受け渡しにおいて、両腕の上腕のみを左に送って構えるべきであるが、このとき腕の移動と一緒に両肩も左に回転して開き、左肩が凹んで肩の線が狂う。

3)大三で狂う
大三は左腕を延ばし右腕は折りたたんで三分の一の形であるので、肩甲骨の開きが非対称となり、両肩の高さに段差が生じ、両肩軸が狂い易い。ここで弓手肩関節を下に引き締めたまま嵌めることが肝心であるが、左肩が上がり易く、左に開き(凹み)易い。逆に、左肩を入れ過ぎると右肩関節が右に開き(逃げ)、狂い易い。

4)引き分けで狂う
引き分けで右に大きく引く意識が強いときは、退き胴となり易く、右肩が右に開いて(逃げて)狂い、右肘が納まり難くなる。逆に、引き分けで右肩を納める意識が強いときは、懸り胴となり易く、右肩が出て狂い、小さく右肩で担ぐような片釣り合いとなる。

2.三重十文字の歪み矯正


体幹(インナーマッスル)を強くし、丹田に息合いをため、中央に意識を保ち、両肩および両脇腹を引き締め、両腕は楽にし、左右に偏らぬように行うことが肝心である。

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