7-33 十文字射法について その3 〜五重十文字のこと〜
昔の弓道書に「七道(射法八節に相当)の曲尺のことは五重十文字より初めて万事の曲尺なり」との記述があります。また弓道教本では、基本体型に縦横十文字の規矩と五重十文字が定められており、「射の運行に伴ってつぎの五カ所の十文字を構成し、これが総合的に働くことを射の基本」として「それぞれほぼ直角に十字の形態をなしていなければならない」と記述しています。
この五つの十文字は似ているので紛らわしいのですが、射の運行に伴って確認していけば、極めて自然に覚えられます。
この五つの十文字は似ているので紛らわしいのですが、射の運行に伴って確認していけば、極めて自然に覚えられます。
1.弓と矢の十文字(矢番え十文字)
矢番え動作において「矢を弓に直角に番えよ」と云う基準である。言い換えれば「弓はつねに鉛直に、矢はつねに水平に保つ」ことである。弓を鉛直に立てるとき、弦(弓の上下を結ぶ線)に直角に番えることであるが、矢は僅かに浮き上がって飛ぶので、やや上に番えるのが良いと思う。
これには「筈上下の口伝」と云って、筈を上に番えると矢は下に飛び、下に番えるとき上に飛ぶので微調整に使えるが、その範囲は筈一つ分以内に留めるべきと云われている。矢は離れにおいて弦が弓把まで戻った瞬間に飛び出すが、この時に矢が弦に直角でないと、矢に斜めの力が作用して大きく狂うので、最初に注意すべきことである。この十文字が正しければ、弓を鉛直にすることと矢を水平に保つことは同一となる。
2.ユガケの親指と弦の十文字(取り懸け十文字)
取懸け動作において「ユガケの親指と弦を直角に懸けよ」と云う基準である。射における力の釣り合い、離れにおける弦の別れ(真っ直ぐに、軽く、鋭く)を考えるとき、親指と弦が直交していることが肝心である。
しかし、ユガケの弦枕は親指の軸に対して斜めに取り付けられているものが少なくない。このため親指はかなり下向きに取り懸けてしまうことが多く、離れが水平に出難い場合がある。このような場合には、懸けの手首および上腕の使い方に注意して、なるべく親指が水平になるように延ばし、上腕全体で絞り(甲が天井を向くように)、丸く抱えるとき、弦と親指が直交に近くなり、弦からの力は親指に水平に作用し、水平な離れが出易くなる。そして離れに至るまで保持すべきものである。
なお、ユガケを絞らずに平付け(甲が脇正面を向く)で行うとき、親指は斜め下向きとなり、弦からの力も斜めになる。
3.弓と押手の手の内の十文字(手の内十文字)
弓構え動作において「手の内は弓に直角に押し当て」、「離れまで保持する」が基準である。他のスポーツのように弓を掌で握りこんではいけない。整えるときは弓の外竹の内側の線を手の内の天文筋(掌に直角)に当て、親指の腹を握り皮に水平に沿わせ、親指の角見と人差し指の付け根と小指の付け根の三カ所を離さぬように押し当てるのが「三隅の手の内」であり、さらに小指を締めるのを「中四角の手の内」と云う。
これができれば弓手は弓に直角となり、弓を水平に押し、馬手の大指の働きと水平に釣り合う。弓構えではできるのに、打ち起こし・受け渡しにおいて狂ってくるのは、両腕を高く持ち上げたとき上腕は斜め上を向き、手の内も斜め上を向きやすい。ここでは手首の関節をしっかりと折り曲げ、弓手・馬手ともに指先が水平方向を向く(鳥の頭の動き)ようにすべきである。弓手は烏、馬手は兎のように譬えている。
4.胸の中筋と両肩を結ぶ線の十文字(縦横十文字)
打ち起こし、引き分け、会に至る動作において、体幹を強くし、上体の力みを抜いて「縦横十文字および三重十文字」の基準を確認する。これは総体の十文字とも云われる。
5.首筋と矢の十文字(会の十文字)
会に至る動作において「首筋が鉛直に立ち、矢が水平になって直交する」基準である。頭もちを正し、三重十文字が整い、父母の釣り合いで、体格に合った矢束まで引き分け、胸弦、頬付け、狙いが正しく着き、伸び合うことが必須である。ここまでできれば「会するものは定めて離れること必定」であり、軽妙で鋭い、自然な離れとなる。
櫻井 孝 | 2016/01/01 金 00:00 | comments (0)
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