home >  弓道四方山話 > 巻の拾弐 「文の巻」

12-20 手の内における指の呼び方

竹林流の「四巻の書」における馬手(懸け)の指の呼び方、「恵休善力」について、尾州竹林の星野勘左衛門系と紀州竹林の瓦林成直系(本多流の本書)の伝書に解釈に違いがあるので、少々マニアックな事柄ですが、少し我流の解説を行いたく思います。

弓手の手の内については父の巻に、馬手の手の内については母の巻に種々のことを書きましたので、具体的な事柄についてはそちらを参照ください。

流祖竹林坊如成が書いた「日置一篇の射」は二代目の石堂竹林貞次によって4巻編成に改編されて「四巻の書」となりました。しかし、如成の文章は極めて簡潔であったために解釈が難しいことと、切り貼りして編集したために繋がりにくくなった部分があり、貞次が丁寧な注釈を書き加え、さらに後の後継者が注釈を加え、代々書き写されて伝書となりました。したがって、同じ流派の伝書でありながら、その系列によって解釈の違いが生じたものです。

竹林流では弓手手の内の呼び方として、四巻の書の本文には記述されていませんが、両書とも「定恵善神力」とあり、一致しています。これは「親指は定める指、人差し指は恵む指、中指は善き程に締める指、薬指は神と拝む指、小指は力を込めるべき指」と解釈しています。

弓手の五箇の手の内において、「鵜の首の浮きたる、定、恵、善の三指に口伝あり」、「鸞中の軽し、定、神、力の三指に口伝あり」とあり、指使いはそのまま理解できます。

馬手手の内(三つ懸けの場合)の「恵休善力」について、星野勘左衛門は弓手の「定恵善神力」という言葉はもともと特定の指を示すものでなく、その働きを云うものであり、馬手においては弓手とは呼び方が異なると解釈し、「親指は恵む指、人差し指は休め、中指は善く締め、薬指・小指は力を入れよ」と注釈しています。

一方、紀州竹林系(尾州から紀州に仕えた瓦林与次右衛門成直、吉見台右衛門順正)の伝書(本多流の本書)では「恵休善力」について、弓手手内と同じ呼び方で「恵指(人差指)は休め、善指(中指)は力を入れよ」と極めて素直に解釈しています。

このように指の呼び方と働かせ方の解釈に違いはありますが、いずれも親指の帽子を中指で善き程に締め、人差指は中指に軽く添えて、薬指、小指は締めよとなり、具体的にはともに同じです。人差指で親指の帽子を押さえ締めるときは、矢に障りが出て離れが出にくくなります。また薬指、小指を締めれば、中指を柔らかく使えて、肘尻に力を伝えられます。

自分は尾州竹林流星野派の道統であった魚住文衛先生に教えを受けたものですが、この解釈については瓦林成直の解釈のほうがしっくりします。

コメント

佐野さんコメントを有難うございます。
弓道教本第三巻の松井先生の言葉の出典については判りません。
竹林流の伝書は手元にあるが、日置流の伝書はないので、判りません。竹林坊も日置流流祖の吉田重賢に弟子入りしていたと思われますので、日置流の伝書にも同じような記述があるかも知れません。

竹林流の伝書の中で、尾州竹林系と紀州竹林系の解釈が違ってきたというのは極めてマニアックな事柄で恐縮ですが、これは竹林坊の言葉があまりにも簡潔過ぎて、解釈が難しかったためです。

尾州竹林の星野勘左衛門の解説は 5−18、5−19 に書いたように非常に詳しく、格調高いものです。
また紀州竹林系の伝書は、尾州で学んで紀州に仕えた瓦林與次右衛門(南紀徳川史、弓道士魂では尾林與次右衛門となっているが、これは毛筆字体の誤解であろう)が、本多流の「本書」に格調高い解釈をしています。
昔はその所属流派の道統が解釈したことは、全て鵜呑みで納得しなければならない時代であったが、現代ではそういう束縛は関係ないので、素直に理解できる解釈を選択できます。
櫻井孝 | 2014/04/21 16:43
 なるほど、紀州系の書き方では、恵休善力を「恵指は休め、善指は善き程に力を籠める」と解釈しているのですね。なるほどなるほど。
 この定恵善神力については似たような呼び名でも、流派によって少しずつ違うのですね。弓道教本第3巻P198には
  弓手――恵休善心力
  右手――譲恵善心力
と書かれていて、当初、こんがらかっていました。これは、松井政吉範士の文章ですが、日置流印西派の口伝でしょうか?
佐野 | 2014/04/19 23:41

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