home >  弓道四方山話 > 巻の八 「石火の巻」

8-18 矢が浮いて飛ぶのは錯覚です

矢番えの高さを議論するとき、高速度撮影の映像から「矢は飛び出してゆく瞬間に矢摺り籐の位置で2〜3cmほど浮き上がって飛び出してゆく」と云われています。その証拠に矢摺り籐に矢の擦った跡(初心者)をみて納得した気持ちになります。

しかし、矢が0.5m程度しか飛び出していない段階で2cmも浮き上がったのでは、28mでは1mもホップすることになってしまいますので、一寸怪しいと思います。

離れの瞬間を考えてみると、誰でも押手を若干(個人差がある)左下に切り下げて放していますので、矢は水平に飛び出しているのに、弓が下がって矢摺り籐との関連から浮き上がって見えるように、錯覚してしまうためであろうと思います。

「弓道教本」の射法八節図解などから、会では押手の拳の上に矢が水平にのっているので、手の内は口割と同じ高さにあり、押手の上腕は肩の付け根に繋がっている、すなわち口割から肩の中心線までの高低差(13cm程度)の分だけ弓手の腕は上向きの斜めになって受けています。したがって、自然な離れによって押手が真っ直ぐに伸びた場合には、握り拳一つ分左下に開いて収まるのは正しい結果です。

しかし、理想的な離れの瞬間は、急激に左下45度方向に振るべきではなく、両手拳は矢筋方向に接線方向に伸びて開くイメージであるので、離れの瞬間に浮き上がって見える高さはなるべく小さいほうが望ましいのです。

逆に押手を止めたまま離れるのは、腕に働いていた反力の開放を抑制する動きであり、押手の浮き上がりと同様に、矢を押手と矢摺り籐とで擦るので、角見が効かず、矢は右上に飛びます。このとき親指の皮膚から血がでたり、矢摺り籐に擦った跡が付き、矢の頬摺り羽が擦り切れ、ひどくなると弓手の腕や顔を打ちます。上級者は矢摺り籐に擦り痕がつきませんし、頬摺り羽も痛みません。

以上は、離れにおける押手の腕全体の働きとの関連で書きましたが、手の内の働きとも密接な関連があることは当然のことですね。

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