home >  弓道四方山話 > 巻の四 「父の巻」

4-26 猿臂の射について

一般的な射法では弓手の肘は大三において真っ直ぐに伸ばし、右肘は折り曲げて、均等な力で引き分けて、弓手は直線的に伸ばしきったまま会に至ります。

しかし、竹林流では「猿臂の射」といって弓懐で作った円相の構えを崩さず、弓手の肘をやや撓ませたまま大三に打ち起こし、引き分け、会においても弓手の肘は伸ばしきるのではなく、やや受けて肘関節に豆粒ほどの余裕を残すのが掟であります。これは「ツク」といって弓手をつっかい棒のようにすることを嫌うためです。

弓手の肘を伸ばしきって棒押しとするほうが、肘関節は骨で直に受けて曲げる力がかからないので楽ですが、左は押す肩、右は引く肩となり、突っ張る肩となって離れの衝撃が直にくるので、昔の人の強弓では関節を痛める恐れがあったのかもしれません。

これに対して、猿臂の肘ではやや撓ますことによって肘に弾力を持たすことができますが、肘関節を曲げる力が作用するので肘を開く筋肉が必要になります。このとき左肘をあまり控え過ぎて(曲げ過ぎて)しまうと、引き分けが苦しくなり両肩の収まりにも支障がでてきますので適度な範囲がありますが、試しながら自然にきまるものでしょう。

私は弓手の前腕を伏せる(内回させる)のでなく、照らす(外回させる)のでもなく、前腕の2本の骨をほぼ上下にして肘に弾力をもたせるように意識しています。

このように猿臂の射は弓手の肘にも円相の働きが残っているので、会の延び合いにおいて、両肘を開く働き、両上腕の働き、両肩の働きが対称的に作用するイメージができ、胸の中筋を中心にして、弓手の肘と馬手の肘と両肩との4箇所が同時に割れる四部の離れを出したいものです。

空手では「猿臂」と言う言葉は肘を曲げて、北斗の拳が「アチョウ、アチョウ」といって鋭く打つ肘打ちのことです。

伝書には猿が左腕に藤弦を絡ませ、笹竹を番えて引き絞り矢を放つのを喩えて「猿臂の射」と名づけたとありますが、実際には猿腕と呼ばれる骨格の人は前腕を伸ばしたとき、肘関節は180度以上に開き過ぎて、肘が前にでて弦に擦ってしまうものであるので、猿臂の肘とは反対の形であると思います。

また、伝書には直腕の人ばかりでなく、腕の関節の障害、すなわち曲腕、曲陸腕(上に凸に曲がる)の人に対しては、その射手の骨格に合わせた肘使いも解説しており、これが骨法であると思います。このように腕の関節に障害のある場合には相当厳しいものがあると思われますが、鍛錬によってその骨格に合わせた肘使いを会得することができれば、射法には問題がないと言えます。むしろ相当な名選手となった方々を知っています。

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