home >  特集記事 > 星野勘左衛門 経歴の謎に迫る

4 杉山三右衛門という人

堂の肘木に折れ残った矢篦
▲堂の肘木に折れ残った矢篦

改めて富田先生の「竹林流正統系譜」を詳しく調べてみると、紀州ゆかりの射士として石堂竹林貞次の弟子に杉山三右衛門と、佐竹(武)源太夫の名があります。

「杉山は始め紀州藩に仕え極めて微禄であったが、尾州藩に来て貞次について射技を磨いた。寛永八年(1631年)に尾張藩士として三十三間堂にて通し矢 2,784本を通し、寛永十二年には3,474本を通し、さらに翌十三年に5,044本を通して、三度天下一となったので、三百石の知行を得て御弓役となり、貞次の印可を得て、尾州藩士として没した」とあり、星野勘左衛門の天下一の33年前の先輩です。

また、上記の名古屋市史の人物列伝にもさらに詳細な記述があります。「杉山三右衛門は、はじめ紀伊侯に仕えていたが微禄なり。射を善くして常に業を練り、芝を射る(堂に上る前に庭の芝生で行う通し矢練習)に妻が子供を背負いながら矢を拾い、夜は妻と共に矢を作って生計の足らざるを補っていた。妻にもう少し辛抱してくれ、いまに輿に乗り人に夫人と呼ばれるような身分にしてやると常に云っていたが、いつまでも知られる(認められる)待遇には至らず。ついに和歌山を去り、尾張に来て石堂竹林貞次に頼る。竹林その技を見るに頗る精妙なり。竹林は尾州侯に勧めて、平岩弥右衛門の同心となし、後に弓役に挙げられた。寛永八年、三十三間堂の通し矢で朝岡平兵衛以来の天下一を尾張に獲得し、(略)その後、三度び天下一となる。紀伊の君臣これを聞きて甚だ悔やむ。海内(日本中)の諸氏は杉山三右衛門の技と竹林のよく人を知る明を賞賛した。寛文十一年(1671年)三の丸の門番頭となり三百石を賜った。(略)」とあります。これぞまさしく、彼が願った通りのサクセスストーリーでありました。

杉山がこの三の丸の門番頭となって加増を受けたのは、実に杉山が三度天下一となった時ではなく、星野勘左衛門が天下一を取った2年後です。これは星野の師匠である長屋六左衛門と同様に、先輩として星野を育成した褒美であるとともに、彼の偉業が改めて認められたためと推定できます。また、その褒章が遅くなったのは、彼の経歴の評価が難しかったためではないでしょうか。

また、インターネットの検索から、杉山の系譜をみると、祖父、父の半助は徳川の三河武士であり、松平信康、松平忠吉から紀州の徳川頼宣に仕えたので、三右衛門も三河、尾張から紀州に移り紀州藩に仕えたことが記されています。

これらの記述は上記の「南紀徳川史」の記述、劇画「弓道士魂」と人名が異なるだけで、事情もいきさつも極めて類似しています。もし、星野が脱藩者であるならば、このように瓜二つの事実が33年を経て繰り返されたことになり、不自然であると思われます。

コメント

くるみさん コメントを有難うございます。
 私は「南紀徳川史」を直接読んだことはなく、古い弓道誌に書かれた「紀州藩通し矢物語(4)」の中の星野勘左衛門の記述が間違いではないかと考えたので、その「南紀徳川史」に杉山の記述があるとは思っていませんでした。私の書いた杉山三右衛門の記述は名古屋市史からの引用なのです。しかし、「弓道誌」2月号の話の文献には名古屋市史が記されていません。だから参考文献は同じではありません。
 すると、この「星野勘左衛門の経歴の謎」も読んでいて、黙って引用したのかも知れませんね。そうなら一言書いてくれれば良いのにと思います。
櫻井孝 | 2017/02/22 12:12
初めてコメントします。
いつも道場でお世話になっております。

月刊弓道2月号の、杉山三右衛門の記事、読みました。

参考文献が同じだからでしょうが、それにしても、櫻井さんの文とよく似ていますね。
くるみ | 2017/02/21 18:35

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