home >  弓道四方山話 > 巻の九 「紫部の巻」

9-11 力を抜く

安定していて、伸びがあり、軽い離れをだしたいと思うのは皆さん共通と思います。 そしてこれを求める時、力を抜きなさい。手先の力、手首の力、肘の力、肩の力、胸の力を抜いて、下腹に力を込めよと教えられていませんか。

私はこの教えは間違いであると思います。引き分けから会に至る時、力が増大するから矢束が伸びて引き分けられるのですが、ここで力を抜くと引き分けてきたものが、戻ってしまいます。

会の持満でこれを行うと緩んで、戻り離れとなります。 手首の力を抜くと、押手は角見が抜け、勝手はつぶれて縮んでしまいます。 肩の力を抜くと肩根が浮き上がり、胸の力を抜くと胸が縮んでしまい、「五緩」の悪癖全てが出て、直らなくなり、大変です。

したがって、唯伸びて緩まざる射、詰めあい、伸び合いのある強い射を目指すならば、力を抜くのは絶対に禁物であると思います。

力(ちから)を抜けと教えるのは、「み」が抜けているのです。「ちから」ではなく、力み(りきみ)を抜けと教えているのが、誤解されてしまったためです。

どんなスポーツでも筋肉が硬直する「りきみ」があるときには、コントロールが効かず、鈍くて勢いの無いものになってしまいます。りきみを抜いて、はじめて左右の力のつりあい、和合が図れるものであり、中筋にしたがってよろしく左右に分かつような離れが出せるのです。

「いかほども強きを好め押す力、引くに心の在りと思えよ」、と言う弓道教歌があります。私の我流の解釈では、「押手は強いほど好ましいが、むやみに力んで押すのではなく、勝手が弦に引かれる釣り合いを感じながら柔らかくしなさいよ」と教えているのです。

彫刻家のロダンは人間の骨格、筋肉を研究した優れた芸術家と言われていますが、「弓を引くヘラクレス」はダメです。これは、目一杯りきんで無駄な所に力が入っている形になっています。あのような弓は最低であるのに、悲しいかなロダンは弓を引いたことが無かったのでしょうね。

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