home >  弓道四方山話 > 巻の七 「十文字の巻」

7-6 会の力の力学

離れの働きを考える時、よもやま話の始めの頃に書いた力の働きについて改めて追記したいと思います。

ニュートンの力学の最初は作用・反作用の法則です。これは物体が動かない時、作用力と反作用力は等しくなります。従って静止状態であれば押し手と勝手の力は等しくなります。大三、会で静止させるのにはそのような意味があります。また引き分けをできるだけゆっくりさせるのも同じ意味です。また、慣性の法則もこれと同様と考えていいでしょう。

問題は運動の法則です。物体に外力が作用する時速度が変化します。すなわち徐々に力を増大させる時に、引き分けとなり伸びますが、力が減少すると戻りになります。瞬間的に生じるのがビクリです。

力の作用には軸力作用とモーメント作用があります。軸力は腕や肩の中心に力が作用する働きであり、直接骨に作用します。

モーメントの作用は開いたり、閉じたりする働きでこれは筋肉の働きであり、会での力の釣り合いを考える時、このモーメントの働きが重要です。

偏芯モーメントとして以前に書いたように、両肩の中心線と矢筋は平行ですが、高さも水平位置も約10cmくらい偏芯しています。20kgの弓を引いている場合には、正面から見た鉛直平面では20x10=200kg・cmのモーメントで両肩の関節は上に戻す回転がかかっており、これを引き分ける力が肩の関節を下に回転させる方向に作用してつりあいます。

また上から見た水平面でも弓のモーメントは200kg・cmで両肩の関節を前に引き戻す方向に作用し、引き分ける力が胸を開く回転方向に作用してつりあっています。

このとき引き分ける力が大きいと胸が開く方向に運動して、割る離れとなります。

つぎに勝手の肱の関節を見る時、上腕が水平であれば、肱に働く偏芯モーメントも同じですので、200kg・cmで閉じようとするモーメントと開くモーメントがつりあっています。さらに、押し手、勝手の手首が折れて押し手は弓に直角に、勝手の親指が矢筋の平行(一文字)であれば、モーメントは作用していないことになります。

この釣り合い状態で、一瞬の内に弦が開放されれば、胸が割れて、勝手の肱が開いて、両拳は矢筋方向に飛び、十文字の理想の離れになるはずです。

初心者には会でも常に引き分ける気持ちを持続させ、離れに繋げるように指導されていたのは、このような主旨と思います。

ここで、離れが乱れるのは、離れのリリースにあるか、抜いてはいけない必要な力を抜いてしまうためと思います。

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