home >  弓道四方山話 > 巻の五 「母の巻」

5-18 会 -抱え-

竹林流の「四巻の書」は竹林坊の原作を2代目貞次が改定・編集したものです。

四巻之書 初勘之巻 七道 六、会
一に一文字、恵休善力一大事の口伝也。
二に十文字、此十文字は惣体にも口伝在之、詰の十文字共云儀なり。

竹林坊の文章はきわめて簡潔で箇条書きに近いものでありますが、かえって意味深長で解釈が難しいので、それをかの星野勘左衛門が丁寧に解説しています。それを、なんとか口語訳に挑んでみます。星野勘左衛門はまずタイトル(会)の意味について解説しています。

「会」
会という字を書いた理由は「会者定離」の意味である。会うものは定めてわかるるとの心なり。会(かける)により離るるなり。また懸けということは指にかけて引き、離るる時ありて離れることなり。大指(親指)を一騎当千の強みと思って強く働きかけるが、胸筋こそは大将のごとくどっしりと退かず屈まず中央にありて、肘に力を入れて抱え惜しむなり。これを会の大事とする。

抱え惜しむということは、抱えたりといえども肘の力に惜しむ心がなければ、早気になってしまうためである。惜しむものも時にいたればおのずから離るるなりと思うべし。また抱えに(会の深さに)遅速これあり。骨法にしたがい四部の詰めの詰めの楔がよく整う間の抱えであるので、骨法の満る早さには個人差がある。これは弓が活物であり、活物を抱えたるところと知るべし。満ちて詰まり離るるの尺度とする。

みなこれは懸けが正しく真っ直ぐ(正直)であることなり。たとえば懸け結んだものがおのずからはづるるを離れと知るべし。これが抱えであり、懸けたるものを求めて放すのは持つ(たもつ)である。抱えは骨法を育てるので活物であり、持つは骨法を殺すので死物である。

これゆえに竹林流では抱えをもっぱらとする。放す心はかりそめにもあるべからず。離るるを待つなり。おのずから離る時ある。

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