home >  弓道四方山話 > 巻の四 「父の巻」

4-4 押手の手の内

弓道の理想はいつも中庸であり、手の内には上下左右と中央の五品があります。

1.押手の五品

1)上押し

上押しは、弓に対して直角よりも上にかかる手の内を云います。離れは下に切り下げとなりますので、矢は下に落ちます。しかし押し手の接触面が小さく、親指が伸びやすく角見が効くので、極端にならなければ、初心者にはお勧めです。

2)下押し

下押しは弓に対して直角よりも低い角度で下から上へ押す手の内です。これは大三で手の内を腕の延長線の形に真っ直ぐ入れると、親指の付け根が握り革にくっついていわゆるベタ押しとなります。これは接触面が大きいので、バランスが悪く(押しては天秤の支点のようにと書きました)、離れで角見が効き難い欠点があるので、顔や腕を払いやすいことになります。手の小さい人はこのような手の内になりやすい傾向があります。

これを直すには、古書では大三で押し手は烏(からす)や、鵜の首のようにと指導しています。むしろ鳩の首のような形の方が判りやすいですね。すなわち弓手の手の内は取り掛けの時から弓に直角にして指の握りを整え、弓を打ち起す時の高さの変化には手首の関節を自由に折って大三で手の内をロックします。

従って大三では肩から弓手の手首までは上から見てまっすぐですが、横から見ると手の内は弓に直角に握っているので、手首で折れることになります。そしてこの時押手の親指の付け根(掌根)の下にできる空間を密着させないで、なるべく広く空けるようにする、小指が逃げないようにする、3本の指は小さく重ねるように詰めて揃える、親指を反らせるようにするとよいでしょう。

3)控えすぎ

控えすぎの手の内は、大三に移るとき手の内を堅く握りすぎて、回転が不足して控えすぎの形です。押し手の腕からの力が人差し指側に作用し、親指の付け根に力が入らず角見の効かない手の内となり押せません。 しかし、極端でなければ、ここから絞り込む余地と可能性があり、強力な押し手を得ることができますので、やや控えめが望ましいでしょう。

4)入りすぎ

入りすぎの手の内は、大三の時に上から見て弓の面に直角になるところまで押してをぐるっと回して入れた手の内です。この場合には手の内は既に弓に直角になってしまっているので、絞り込みの余地が無く角見が効きません。初心者に多く、ベタ押しと合わさることが多く、顔、髪、腕を払い、弓返りしないのはこの手の内のせいです。

5)中押し

中押しの手の内はこの上下左右の癖の無い、理想の押してです。しかし初心者には、むしろ上押し気味、控え気味が良いと思います。ポイントは大三での手の内のロックにあります。大三で横から見る時には手首が折れて握りが直角であるのに、上から見る時は手首は真っ直ぐで、弓と弦のつくる平面にたいして角度(10度位)を持って3本の指を握り込むのがよいでしょう。日置流、竹林流などの斜面ではこれを弓構えで行います。


2.中押しについて

押手に五品があり、中押しがちょうど良く、上押し、下押し、入れすぎ入り不足ともに不適であると指導書に書かれています。

しかし、もともと日本の弓は下が短く上が長いので、上下は対称ではありません。弓は引き絞った時、下がつよくなり、弓は握りの位置で少し前傾し、下から上に突き上げる力を受けます。このとき、弓に対して水平に力を作用させたのでは、弓が下から突き上げる力が勝り、下弓が早く返り、釣り合わなくなり、離れで弓が暴れます。

従って押手は約10度位上押しとするのがちょうど良く、これを中押しと言い、水平に真っ直ぐ押すのは下押しの部類に入ると思います。浦上先生や稲垣先生の本には、「紅葉重ね」、「角見の働き」のことが詳しく書かれています。手の内をきちっと作って小指を逃がさないようにすれば、上押し過ぎの手の内は作ることが出来ません。手や顔を払う場合には、むしろ上押しを効かして角見を働かすことを考える方がよいと思います。

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