home >  弓道四方山話 > 巻の弐 「地の巻」

2-14 矢の筈を弦が押し出すこと

離れた後の瞬間に、弦が懸けの弦枕から分離すると、弓の反力が解放されて、弦が戻り矢筈を押し出して、矢が飛び出してゆきます。これは弓の運動です。

このとき弓に真っ直ぐな力を加えただけの状態から、解放すると、矢は右上45度の方向にはずれて飛んでゆくことでしょう。

このことは、日本弓の性質であり、故石岡久夫範士の「弓道の新研究」に詳細に分析されており、この「弓道四方山話」でも最初の頃に「弓の薀蓄」として書きましたので、今回は簡単に述べます。地の巻の「弓の薀蓄」、「偏芯モーメント」、石火の巻の「矢は右に飛ぶようになっている」を参照してください。

すなわち、矢が真っ直ぐ的心方向を向いていて、真っ直ぐに離れが出ていても、弓を真っ直ぐに押し引きする力(中心軸X軸方向)だけでは、右上45度方向に飛んでしまいます。

これは和弓では、矢を弓の右に番えるために弦が中央に戻ろうとして左右がアンバランスとなって、矢を右に押し出してしまうためです。

弓の形の良否もこの矢飛びに影響をあたえます。入木(いりき)の弓は弦が弓の右側に来るように調節してつくってありますので、若干は偏芯が小さくなりますが、いぜんとして角見射法は必要と言えます。

また、和弓は下側が短く、上側が長いので、下側の剛性が上側よりも強くなりアンバランスとなり、離れで下側が早く返り、斜め上方向に力が作用することになります。したがって押手はやや下に押さえ込む働きが必要となります。

したがって、矢が右上にスライスする分だけ、角見と、上押し(適度な上押しを中押しと言う)の働きで押さえ込む射法(コントロール技法)が必要となりますが、これは射手の所作であるので、また次の機会に述べましょう。

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