home >  弓道四方山話 > 巻の弐 「地の巻」

2-4 偏芯モーメント

弓は力で引くな骨で引け、とか骨法と云う云葉を日置流、竹林流ではいいます。私も骨にはめて引き分ける考えを信奉しています。では極端な話、骸骨が弓を引くとどうなるか考えてみましょう。

昔の人には、推手の力、勝手の力、肘の力と云う表現はありますが、偏芯や偶力によるモーメントの概念がありませんでした。モーメントというのは天秤の釣り合い、洗濯ハンガーでのバランスと同じです。

和弓では横から見るとき、矢の位置(押手、勝手)と両肩の高さには約10cm程度の偏芯があり、上から見るときも、矢筋(押手、勝手)と両肩の中心線とは約10cm程度偏芯しています。

ここで、骸骨のままではガシャと戻ってしまうので、筋肉をつけましょう。まず両肩の筋肉、上腕の筋肉、腕の筋肉、手首の筋肉、握力などすべてが必要です。ここで、弓と弦の戻る水平の力(軸力)の大部分は両肩の骨で支えれば楽に抵抗できます。しかし、この水平力と縦横の偏芯によるモーメント分は、押手の上押し、角見の力と肩との偶力、および勝手の掛け口の張りと肩との偶力によって釣り合わなければなりません。この釣り合いモーメントが肘を締め、伸びあいとなって離れを誘う原動力といえます。しかし矢尺を大きく取りすぎて、偏芯モーメントが大きくなると、たぐりとなり緩む原因となります。

昔の教えではこのモーメントについて、そりはしにする、とか抱きかかえる、張りをもたせる、絞り込むという表現をしているのが、同じ考えと思います。弓の薀蓄と題して以前にも書きましたが、和弓は上下が対称でないため偏芯モーメントが発生し、弓の反発力は約10度位の角度で下から斜め上に返って来ます。このため押し手は少し押さえつけるようにする必要があります。いっぱいに引き込んだとき弓は握りの位置で約10度程度傾きますので、結局押し手は弓に直角に当てるのがちょうど良いことになります。

初心者のころ私もそうでしたが、親指の皮が矢で擦れて血がでることがありました。これは、弓の上向きの反発力に対して、上から押さえる押し方ができていないためです。

また和弓では矢を弓の右側に番えますので、弓の幅の半分だけ偏芯モーメントが発生します。したがって弓手の握りの要領が判らない初心者は矢がスライスして前に出ます。

角見を効かすというのは、親指の力で弓の角を押すと矢の位置と同じ線上となり、偏芯軸が釣り合います。しかし弓を手首でこねて、離れの瞬間に手首で振るのは良くありません。ゴルフでもスライスを直そうとして手首でこねるのはよくありません。

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