home >  弓道四方山話 > 巻の弐 「地の巻」

2-19 力の働かせ方と骨相筋道について

弓道における力の働かせ方について、一般的に「手の力、腕の力、肘の力、肩の力」と呼ぶことが多いです。例えば「手首の力や腕の力を抜いて、肘の力を働かせなさい」というふうに使われます。しかし、この表現は間違いであると思います。

これは本来なら、「手を動かす力、腕を動かす力、肘を開く力、肩で受ける力」と云うべきですが、弓手は真っ直ぐに働かせようと腕の骨に作用する軸力をイメージし、馬手は腕を折りたたんで行いますが、前腕も上腕も腕の軸力だけをイメージして表現することが多いです。

本来、力の働きには軸力とせんだん力とモーメント(偶力)があり、このうちの偶力の働きが支配的であるのに、昔はこの概念が無かったために、この偶力の行き過ぎを、「手繰る」、「こねる」、「捩じる」、「振り込む」などと、否定的な表現で用いられてきたと思われます。

昔の弓道書には「骨相筋道(こつあいすじみち)を本とする」という大原則があり、これは骨を合わせて筋力で真っ直ぐに伸ばすことが肝心であるという考えです。言い換えれば、人体は骨と関節と筋肉でできており、これはクレーンと同じように、物を吊り上げるとき、シャフト(腕)から少し偏芯したワイヤー(筋肉)が引っ張るときの偶力によって引き起こされ、その分力がシャフトに伝わっているのです。

ここで、両肩の軸線からの偏芯による偶力に負けないように、大きく張り過ぎるのが手繰りの射形であり、手の内の偏芯に対して角見を強くし過ぎるのが捻り過ぎの弓手であり、ともに安定しません。離れで弓手をこねたり、振り込み離れとなって正しくなりません。

一寸逆説的ですが、引き分けの力は如何に左右の骨格・関節を均等に嵌め合わせ、なるべく力を骨で受けられるように、両肩の軸と矢筋とを近づけることによって、偶力を柔らかく小さく働かせ、矢を真っ直ぐに飛ばすことができるのです。

話は変わりますが、白石暁・小笠原清信共著「詳説 弓道」や唐沢光太郎著「弓道読本」などにおいて、人体骨格図、筋肉図、レントゲン写真を多数使って、力の働きを説明しているのは、この骨相筋道に従った解釈であろうと思います。

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