2-20 狙いと的中
1.外れの誤差論
自分はどうして中らないのだろうと思う時、自分の射が理想的な射法に至らないためと考えて卑下していませんか。
それは確かですが、理想的な射でなくても、そこそこの中りは出るはずです。
誤差論で考えれば、的の半幅約18cmを28mの距離で割れば6mmとなり、目から弓までの距離を60cm程度とすれば、押手の位置で約3mmの誤差となるので、狙いをこの程度に合わせるのはそれほど難しくないと思います。

実際に的に中らないのは、離れで体や弓手、馬手がこれ以上にぶれて、弦が矢筋方向に戻らないことが原因です。
会の状態で空間に浮かんでいる矢を、矢筋方向に真っ直ぐに飛ばすことがポイントです。
しかし、弦の戻る道は柔らかく離そうとすると乱れやすいので、むしろただ左右に伸び合って、離れの軌道を決めるほうがかえって安定します。
要するに、外れるのは誤差論ではなく、離れで体がブレたり、バランスを崩すため、曲がって飛んでしまうのです。
2.和弓では自分で狙いが判らない
洋弓では半身で引き、自分の目で矢筋を直接確認して狙いを定めることで正確な照準ができます。

しかし、和弓では矢が頬にあり、目線とは偏芯しているため、自分の目で矢の方向は見えないので、狙いは自分では判りません。

狙いは両目で的を見たとき弓が二重にぼやけて写りますが、図-3のAのように、左側に見える弓が右目で見た像で、その左側の籐で的を半割とするのが標準的な狙いであると云われます。この時、狙いを確認しようとして弓に焦点を合わせますと、図-3のBのように的が二つ(3的付けでは6個)になって狙いが判らなくなります。だから弓を見てはいけません、的に焦点を合わせるのです。
ここで、なぜ右目なのか、なぜ籐の左側なのかと疑問に思うことはありませんか。それは図-2に示すように、左目の視線は矢の延長線と大きく離れているため透き通って見え、関係しません。矢に近い右目が主体になりますが、弓を注視してはいけません。的を注視して下さい。
3.的に拘るなとは
近代の弓道では精神性を重視する風潮から、狙いに拘るのは卑しい射であり、正しい射法を身に付けることが肝心で、そうなれば狙いは意識しなくても自然に付いてくるという教えがあります。オイゲンヘリゲルの「弓と禅」に阿波研造先生が「的を狙うな」と云っています。しかし、そのような考えは合理的ではなく、狙いが不正では何が正しいかを見失い、遠回りすることになります。
初心者の方の多くが的のはるか後を狙っていることを知らないで、自分は正しく狙っていると勘違いしていることがあります。その結果、押し手を打ち、髪を払い、矢は矢摺り籐の右側を擦って、右に飛び出して行きます。矢の飛んでゆく方向から狙いを定めてはいけません。
矢が曲がって飛ぶ分だけ狂わせて狙うのは上達を拒否していることです。まして、後ろを狙っていることを知らないのはあまりにも無知と言うほかありません。
4.中野慶吉先生の教え
弓道教本第四巻に中野慶吉先生は「弓の狙いと矢乗り」について、以下のように書いています。
矢は常日頃より、必ず的心につくようにしていなければならない。
それには物見を正して、真の矢束を引き分け、頬付けを定め、胸弦がつくなどして整えた会で、しかるべき人に、後ろから矢が的心に付いた所を教えてもらい、良くその位置を弓を透かして確認して、正しい矢乗りを身に付けることである。矢が前に出るからと後に付け、後に行くからと前につけたりして的に当てるなどは、正直なことではない。
的心に矢をつけて前にそれるとしたら、一層に技や均衡を修練してゆくのが修行道なのである。
矢摺り籐を透かして、あるいは弓で的を半割して的を見るが、それは単に的を見るのではなく、その的心を目に映すという見方であれば、的に捕われない心眼となる。要するに心が澄めば、目も澄み、精神が統一されるのである。

図-4は然るべき指導者に後方から見て貰い、的心を写し取るものです。
5.左右の狙いについて
左右の狙いについては、図-5に示すように、射手の顔を的側から見るとき、右目と頬付けの矢の中心との間は約3.5�僂任△蝓�偶然に弓の幅とほぼ一致し、弓の左側に映ります。

もちろん、これは顔の大きさ、頬骨の出っ張り具合により変わり、物見の向け方によっても大きく違ってきます。顔をしっかり向けると的が左へ離れてくるので、それを合わせると矢は後ろ(左)へ飛びます。矢が前(右)に出る人はしっかり向けるのが良いでしょう。
また、狙いは的から目までと弓までとの比例関係にあるので、距離によって少し変化します。
1)近的の狙い
私の場合、右目の目頭と頬付けの矢の中心との水平差は35mm程度であり、弓から眼までの距離を60cmとするとき、近的では27.4/28を掛けて34mmとなります。
ここで、弓の幅28mm+籐2枚の厚み2mm+矢の半分4mm=34mmとなり、丁度一致するので、弓の左端に的が半月に透けて見えます。
2)遠的の狙い
遠的になると、59.4/60を掛けても、35mmであるので、近的より約1mm分(的幅の1/4程度)狙いが変化します。このため近的と同じ狙いとすると、少し左を向くので、1/4程度右に向ける必要があります。
3)巻き藁の狙い
巻き藁では狙いを意識しないのが普通ですが、いつも矢が前上15�僂△燭蠅忙匹気蠅泙擦鵑�。
巻き藁から1.5mの距離の場合、35x0.9/1.5=21mmとなり、巻藁の狙いは弓の幅の2/3の辺りになり、的前と同じようにすると、かなり右上に飛びます。
これを意識すれば、初心者でも巻き藁を外すことがなくなります。
6.高さの狙いについて
矢摺り籐に写る高さの狙いは視覚的現象(直線の幾何寸法)と物理的現象(アーチ作用)との引き算になります。
1)視覚的現象による高さの狙い
左右の狙いと同様に、高さの狙いも図―5に示すように、眼から頬づけ(口割)までの高低差が現れます。顔の長さなど各人の骨格にもよるが、私の場合7.5cm程度となります。
これは距離の影響を受けない場合の的付けであり、巻き藁における的付け、あるいは非常に強い弓を引く人の近的の的付けと同じになります。
2)物理的現象(アーチ作用)
矢は重力の影響を受けて、野球のボールと同じように放物線(アーチ)を描いて飛びます。当たり前ですが、弓が強く矢束が長い程、矢が軽い程、初速が早くなり、高さ(ライズ)の低いライナー性アーチの矢飛びとなります。
a)15キロ程度の弓の場合
15キロ程度の弓で近的を行うとき、矢がほぼ水平となるときに的中することは経験から明らかです。
身長170cmの射手の口割から的心までの高低差は凡そ120cmとなります。

図-6は水平に発射し、120cm自由落下するときのアーチ形状です。図-7は的の高さを口割と同じ高さ(高低差なし)に変換すると、中央のライズは1/4であるので、30cmのライズのアーチとなることを意味しています。このときの接線角は2倍であるので、14mで60cmとなり、1mあたり4.3cmの勾配に相当します。ここで眼から矢摺り籐までの距離60cmを掛けると、約2.5cmとなります。

したがって15キロの弓の的付けは7.5cmから2.5cm引いて、握り革の上5cm辺りとなります。
b)弱い弓の的付け
弓の強さとライズはほぼ反比例しますので、これより弱い弓の場合には少し上に向けないと的には届きません。11キロの弓ならアーチ分が3.4cmmとなり、狙いは約4cmとなるでしょう。
c)遠的の的付け
遠的の場合にはアーチライズは距離の2乗に比例しますので、先ほどの15キロの弓で近的用の矢を用いるときのアーチ分は約11cmとなり、7.5cmから引くと-3.5cmとなり握りに隠れてしまいます。
ここで、遠的用の矢の重さを近的矢の6割程度とするならば、アーチ分が6.5cmとなり、7.5cmから引いて、狙いは握りの上に1cm出て、狙い易くなります。

3)矢摺り籐について
弓具店で弓を購入するとき、杉成り籐(五カ所巻き)が多くなっています。これは小笠原流の装束であり、綺麗でありますが、矢摺り籐が細かく長いので、狙いをつけ難い欠点があります。
弓道規則では6cm以上と決められており、先の説明でも長い矢摺り籐は必要ないので、6cm程度の平籐とするほうが正確に狙い易いと思います。
7.的中の注意点
1)矢番えを一定にする
これは五重十文字の最初の「矢と弓の十文字」であり、矢番えは弦に直角か、やや上に番え、常に一定にすることです。昔の弓術書に筈を上(下)に番えると矢は下(上)に飛ぶとあります。その日の調子によって矢が少し上に飛ぶとき、狙いを変化させるのは難しいので、矢番えで微調整できるというものですが、その範囲はせいぜい篦一本程度です。
2)手の内を一定にする
手の内の握る位置を一定にすることです。この位置が不正確では狙いも不正確になってしまいます。手の内を整えるとき、握り革の上から約1�儷�けて人差し指の上側を当てると、丁度よく収まります。
手の内は、手のひらの天文筋を外竹に当て、弓に直角となし、中四角の手の内(三隅とも云う)を定めます。軽く力みなく、中押しの手の内です。
3)胴造り・頭持ちを一定にする
退き胴では矢が上に、懸り胴では下に飛びます。また頭持ち、目線でも変わります。大三で押手を見るなどして顎が浮くとき矢は上に、顎を締めるとき下に飛びます。とくに遠的を行った後は注意しましょう。
4)頬付け(口割)を一定にする
図-5に示したように、頬付けは狙いに直接関係して極めて敏感です。口割が高い(低い)と下(上)に飛びますが、頬の感覚は鈍いので要注意です。
5)矢束を一定にする
引き過ぎず、引き足りなさ過ぎず、常に丁度良い矢束だけ引き納めることです。
6)会・離れを一定にする
会は父母の釣り合いを考え、伸び合って緩まず、左右水平に、石火のごとく、別れるように離れます。離れの大きさ、残身は常に一定とすることです。
以上の注意点がいつも一定にならないと、狙いは正しくても的中には至らないので、日頃から質の高い練習によって習慣付ける必要があります。
櫻井 孝 | 2017/01/19 木 00:00 | comments (0)
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