home >  弓道四方山話 > 巻の七 「十文字の巻」

7-30 会の弓道教歌

「よく引いて 引くな抱えよ 保たずと 離れは弓に 知らせぬぞよき」

これは、竹林流弓術書「四巻の書」に竹林坊如成が詠んだ弓道教歌であり、なかなか難解な歌であるが、味わい深いものがあるので、我流の解釈をしてみたいと思います。

「よく引いて」とは、矢束は体幹にしっかり嵌るところまで引くことであり、骨相筋道に従うとも云います。吉見順正の射法訓に「射法は弓を射ずして、骨を射ること最も肝要なり」とあるのも、同じ意味と思われます。また、矢束が定まっていない人には、大きく射させよという解釈もあることから、「引く矢束」を意味するとも云えます。

「引くな 抱えよ」というのは、よく引いたならばそれを超えて引き過ぎるな、両胸に抱えて納めよと云うことです。ここから「引かぬ矢束」という言葉がでてきましたが、それは手繰って手先で引き過ぎるなと云うことであって、休めたり緩めたりしてはなりません。その人の唯骨格のままの矢束で納めるのが「唯矢束」です。

「保たずと」というのは、会の自満において漫然と「何秒間保つ」という待ちの姿勢を嫌うものです。待っていると盛りを超えて、葉先に溜まりかけた露も乾いて、衰えてしまいます。よく引いて抱え納めたならば、伸びて、満ちて自然に離れるのが自満です。

「離れは弓に知らせぬぞよき」というのは難解な表現ですが、会に至って抱え納め、自満に至るものの、弓手を強く鋭い離れを出そうと考えて、力んで離すのを戒めるものではないでしょうか。自分の経験から云えますが、強くしようとして力むと、かえって矢が伸びず弱くなってしまいます。「弓に知らせぬ」とは、五部の詰め合い、伸び合いにより満ちるとき、我知らず離れるのが良いのです。弓手も馬手も(弓も身も)離れを意識する間もなく、瞬時に離れてしまう「鸚鵡の離れ」が望ましいのです。

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