鞍の修理
騎射の行事は春と秋に集中します。一般に奉納行事は神社の例祭に執行されることが多いことからそうなるのでしょう。
私達は行事を「場所」と呼びます。個々の行事だけでなくシーズンも春は春場所、秋は秋場所と呼びます。
例年秋場所の最後を締めくくるのが多度大社の流鏑馬まつりです。無事にこの場所を終えると大層ホッとします。
しかし、ここでちょっと一休みなどと怠け心を出そうものなら「冬場にどれだけ稽古を積むかが上達を左右する」と兄弟子から戒められます。有り難いことです。
さて、場所の合間にはもう一つやらねばならぬことがあります。
それは道具の手入れです。
騎射の道具は大変損耗します。稽古や場所の度に何かが破損すると言っても過言ではありません。
弓矢や手袋(騎射ガケ)は日常的に修理を繰り返しますが、馬具のような大物はなかなかそういうわけには参りません。
私には一つ気がかりな鞍があって、いつか修理せねばと思っていました。それを今回着手しました。
道具全般の修理について私は三重の先輩に手ほどきを受けました。この方は宗家の著書「弓と礼の心」にも登場しますが、本職は外科のお医者さんです。院長先生のキャビネットには患者さんのレントゲン写真よりも鞍のレントゲン写真の方が沢山入っているそうです。
革製の洋鞍と違って和鞍は木製です。表面には漆を塗ってあります。そのため木部の細かいひび割れや虫食いなどはレントゲンでなければ調べようがないのです。
現在は和鞍を作る職人さんがいなくなってしまいましたし、鞍に適した木材の入手も非常に困難です。つまり新品の和鞍は今後供給されることはまずありません。従って射手自身が古い道具を大切に修理しながら使うより他ありません。
この三重の先輩は矢も手袋も、そして鞍まで自分で作ってしまわれます。私もなんとか矢と手袋は自作できるようになりましたが、これまで鞍には手を出したことがありませんでした。
今回の修理では鞍を切り組んだときのガタつきをなくし、漆の塗り替えを行います。
和鞍は四つの木製部品を麻紐で締めて連結してあります。馬の首側の部品を前輪(まえわ)、尻側を後輪(しずわ)、それらを前後に繋ぐ部品を居木(いぎ)と呼びます。
各部品には麻紐を通す穴が開いていて、この位置や形を調整することでしっかりと連結できるようになります。先輩の教えに従って慎重に調整します。
上の写真のように漆を塗り直す前に仮組をしてガタつきの有無を確認します。
作業中に見つけた本体の細かいひび割れや穴も修理して、いよいよ漆を塗り始めます。漆塗りのコツは一度に厚く塗らないことです。薄く塗って乾かし、乾いた塗装面を研ぎ、また塗って乾かしを繰り返します。
今回は一ヶ月ちょっとかけて12〜13回ほど塗り重ねました。
塗っても塗っても納得がいきませんでしたが(初めての修理ということで免じて頂くとして)ここまでとしました。
くたびれました。
峯 茂康 | 2011/02/15 火 19:08 | comments (0)
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