home >  弓道四方山話 > 巻の七 「十文字の巻」

7-28 「引き分け」という言葉の意味

射法八節の「引き分け」という言葉は、大三から会に至る弦道において「左右均等に引き分けよ」という意味であることは誰もが頭の中では知っています。

しかし、実際には弓手を伸ばして押し、妻手を折り曲げて引っ張るので、力の入れる方向が正反対となります。また弓手は下げるだけの短い距離に対して、妻手は右肩の後ろまでの長い距離を引き回すために、引っ張る意識が強くなり、左右均等に引き分けることを体で感じるのは案外難しいと思います。

改めて「左右均等に引き分ける」の意味を考えると、天秤のように体の中央で釣り合うことであり、そのためには「弓手をつっかい棒のように押して、その反力を利用して妻手で引っ張る」のではなく、「弓を左右均等の力で引き広げながら、その中に体を割り込ませてゆく」イメージであると思います。

1.正面打ち起こしをして、大三を取らないで両肘を対称に折り曲げたままで、弓を両側に引き広げると、均等に引き分けられることが容易に体感できる。このとき、両手、両前腕は引き合い、両上腕、両肩は押し合い、何れも左右対称で均等に弓の引き合う力と釣り合う。

2.次に、このイメージのまま、弓手の前腕を肘から回転させて押し広げること(実際にはこのような順序で行うことはできない)をイメージしてみると、両肘の外側は押し引きとなるが、両肘の内側間は左右対称で均等に釣り合うことが判る。

3.実際の射法においては、大三で弓手の肘を突っ張るのではなく、やや撓ませたまま円相の働きを効かせると、上に書いたように妻手肘と対称なイメージが出し易い。また、左肩は押す肩、右肩は引っ張る肩として「押して引く」のではなく、両肩の付け根をともにストンと落とした状態で合わせれば、両肩、肩甲骨は左右均等に押し合って収まるものである。

4.引き込みの力は左右均等とするのが力学的に正しいが、働く距離が大きく異なるので、仕事(力×距離)が均等になるようなイメージで、あたかも弓手は大目(三分の二)の力に耐えるように支え、妻手は三分の一の力で優しく引く感覚が肝要である。これがかえって左右均等に引き分けるコツであるというのが「射法訓」の心であろう。

今回のテーマについては、「押し引きの対称性」、「打ち起し以降における円相の継続」、「猿臂の射」などに同様のことを書きました、どうも年寄はくどくていけませんね。

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