7-27 遠的射法について
多くの初心者にとって遠的競技は一寸難しいなと感じていると思います。それは殆どの方(私も)が普段近的練習ばかりで、遠的なんて年に1、2回しか行わないので、慣れていないことがあげられますが、遠的の射法というか注意点、要領を理解することが大事と思います。
遠的になると弓の強度にもよりますが、矢先を高く上に向けなければ届かないのは当然であり、矢法(やのり:矢の角度)が斜めになって縦横十文字の形成が難しくなるので、胴造りなどの射法の基本から疑問が生じて狂ってしまいます。
私は遠的の注意点として「遠的の直後に近的を行うときに狂わないようにできるか」を考えています。これは「遠的も近的も同じようにできるか」であり、「どのようにしたら遠的も基本を崩さないで普段と同じように行射できるか」にあります。
古書には胴造りに「懸かる胴」、「退き胴」、「伏す胴」、「照る胴」、「中の胴」の五胴があり、的前(近的)には偏らない中の胴を用いるが、高い的、遠い的を射るには退き胴(のきどう)を用いると書かれています。
この「退き胴」は、股関節から腰を「くの字」に折って(腰を切る)、上半身全体を傾斜させる胴造りであす。こうすれば、矢法が上向く分だけ背骨・頚椎をそのまま後ろに傾斜させることができ、直交を保ったまま五重十文字を崩さずに行射できます。
引き分けの要領として三つの方法が行われているので、勝手な意見を述べてみます。
1)狙い(的付け)だけを高くする方法
近的と同じ射法のまま狙いだけを高くする方法です。非常に強い弓(例えば25キロ以上)の場合には矢法がそれほど高くならないので、同様に違和感なく行射ができます。
しかし、弓がそれほど強くなければ、矢の傾斜が大きくなり十文字の形成が難しくなります。
すなわち、体の縦軸が鉛直のまま、両肩は水平のままで、矢を傾斜させるのは普段の行射とは違和感が大きくなり、押手の方向、手の内、妻手肘の収まり具合が狂い、物見、口割りも怪しく、離れの方向も狂い易くなり、さらには近的射法にも狂いが影響します。
2)会で腰を切る方法
近的と同じ射法のまま会まで引き分けた後、股関節で腰を切って上半身をそのまま「退き胴」として収めなおし、的付けを確認し、詰め合い、伸び合いを行って離れに至るものです。
これは縦横十文字を保っているので狂いは少ないはずですが、会に入った状態のままで上半身全体を大きく傾斜させるのはなかなか難しいです。会に一旦収めた後に腰を切って、遠的用の会に収め直すことは、よほど力と気持ちに余裕がないとできません。その結果、保てなくなり、詰め合い・伸び合いができず、離れも萎縮して苦しい射法と言えます。
3)大三で腰を切る方法
近的と同じ射法のまま大三を決めた後、股関節で腰を切って「退き胴」として遠的用の大三(5cmほど上げる)を決め直し、そのまま平行に引き分ける射法です。こうすれば、近的とあまり違和感なく会に至り、口割りも離れも普段どおりに行射でき、最も単純で楽な射法であると思っています。
その他
「矢番え」は五重十文字の第一番であるので基本的には近的と同様ですが、弓が弱くてなかなか届かない場合には、筈一つ分程度下げて番える方法もあります。しかし、極端に下げ過ぎると矢飛びが乱れて失速するので程度があります。
「取り懸け」も近的と同じです。妻手の手首が凹型になっている射手は近的でも伸びがでませんが、遠的では全く的に届かなくなるので、円相に構えて妻手を丸く使い大きく引く必要があります。しかし、手繰りすぎて親指が下向きに傾斜するのもいけません。「親指と弦は直角」が基本です。
「押手の手の内」も近的と同じですが、押手を高くすると下押しの傾向が強くなります。下押し気味のほうが矢は伸びるのですが、押手が弱くなり、離れが狂って近的射法に影響がでます。「弓に直角に働かせる」ことは変わりません。
「背骨と肩の骨」について、最初は鉛直と水平ですが、直角に保ったまま退き胴とするので、背骨と頚椎は一本のまま後ろに傾斜し、両肩は水平ではなく上向きに傾斜します。
「首の骨と矢」についても同様に直交を保ったまま退き胴・退き物見となります。背骨と一本で傾斜しないで、物見だけが上を向く(顎が緩む)と狙いが大きく変化して矢が上に飛びます。遠的の直後に近的を行うとき、矢が上に飛びやすくなるのはこのせいですので、顎を引き締める意識が必要になります。
「左右の的付け」については2-12に書いたように、近的と同じ的付け(例えば半割り)とするとき、視覚的な理由から的の1/4程度後ろに矢が向きます。したがって、本来ならば1/4程度狙いを前に移すべきでしょうが、退き胴とするとき妻手で引く意識が勝り、若干前に飛ぶ傾向があるので、相殺して近的と同じ狙いでも良いでしょう。
櫻井 孝 | 2008/09/09 火 08:24 | comments (0)
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