騎射でこそ合理的な正面射法
書には真行草、つまり楷書・行書・草書があります。真は正格、草は風雅な崩し、行はその中間です。我が国の芸術は基本から応用への各段階を、しばしば真行草になぞらえます。小笠原流であれば礼法が楷書、歩射が行書、騎射が草書です。
▲数十メートル先の的を正面から真っ直ぐ見たまま打上げる。
▲数十メートル先の的を正面から真っ直ぐ見たまま打上げる。
小笠原流は専ら口伝で、日置流各派のように射術を詳細に解説した伝書類が公開されなかったせいか、現代では特に歩射において「これこそ小笠原流だ」という特徴が分かりにくくなってしまいました。しかし、幸い騎射は当流の流儀を比較的昔のまま伝えています。
そこで、真行草の「草」から「行」を想像する、つまり騎射の射法をつぶさに見ていくことにより古い小笠原流歩射の姿も見えてくるのではないでしょうか。
まず、小笠原流歩射の特徴といえば「正面打起し」ですが、そもそも正面に打上げるのは小笠原流騎射の射法です。(以降は騎射と表記すれば当流の騎射を指します)
ちなみに、当流では打起しを「打上」と言います。通常は打起しも打上も同じ意味で使っているのですが、特に区別するときは「弓をまったく引かないで上げる」ことを打上と言うようです。従って、斜面射法のように弓を押し開きつつ挙げるのは「打起し」です。騎射では歩射よりも大きめに羽引きをするので打上ではなく打起こしです。古くは単純に歩射では打上、騎射では打起しといったようです。
さて、騎射では頭持ちを正面に向けたまま、つまり数十メートル先の的を正面から真っ直ぐ見たままで打上げます。歩射のように物見を入れてから打上げるようなことはしません。当たり前ですが、射手が最初から顔を横に向けていたら馬を真っ直ぐ前へ駆けさせることはできません。
そして通り過ぎざまに的を追って射放ちます。これを押し捩ると言います。銃の動的射撃でいうところの狙い越し(リード)ですね。
一方、武田流では真後を射る射法を特に「押捩り」と呼ぶようです。同じ用語の使い方も流儀によって違うので、古流を研究する際には要注意です。
このように高速で駆ける馬上で遠くにある的から視線を外さないようにするためには正面射法が合理的なのです。
2011/02/18改訂
峯 茂康 | 2007/01/14 日 14:05 | comments (1)
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コメント
現代の射手は馬体の横方向の的を意識していると思っていましたが、この射手は前方(馬首側)にも自由に引き込める姿勢です。古戦場にタイムスリップしても生き残れると感じます。