多度大社流鏑馬祭 その4
流鏑馬射手は射手装束に身を固めます。射手装束とは、水干や鎧直垂を着用した上に、左手(弓手)に射小手を挿し、脚には鹿皮の行縢(むかばき)を着け、沓はなめし革で作った物射沓(ものいぐつ)を履きます。太刀を佩き、刀は前差しを帯びます。これは、あげ装束ともいわれ鎌倉時代の武士の狩装束です。
笠は綾藺笠(あやいがさ)を頂きます。この「綾」は美しいという意で、藺草で美しく編んだ笠をこう呼びます。笠の頂には髻(もとどり:結った髪の毛)を収める巾子(こじ)という突出部があり、意匠上の特徴になっています。
背負った箙には5本の鏑矢を盛ります。根は雁又(狩又)です。矢は弓に添えてもう一本別に持って馬に跨るので、実際に箙から抜き出す(刈り取る)のは5本のうち2本だけです。
古式では、ことさら美しい射小手を挿したり、箙に征矢を盛ったりした射手装束を、特に「揚装束(あげしょうぞく)」と呼んだとも言われますが、詳細は不明のようです。
手には左右一対の手袋をします。一対なので一具ガケとも諸ガケとも呼びますが、騎射の場合は単に「手袋」と呼ぶことが多いようです。近来当流歩射で使用している「諸ガケ」の名前の由来はここにあります。
▲両手一対になった騎射用の手袋
しかし、この手袋は歩射のユガケと違って右手親指に角(堅帽子)や弦枕はありません。親指腹に補強用の革を一枚重ねてあるだけです。
堅帽子ユガケは、鉄砲の伝来により弓術が戦場での有用性を失って武士の嗜み・教養となり、的前射法に特化する過程で発明されたものです。
それまではユガケをしたままで馬の手綱も執り、刀も握って戦っていたわけですから、修羅ガケと呼ばれる戦闘用の手袋は、すべからく騎射手袋のようなものであったに違いありません。
最後に弓です。騎射は実戦同様、屋外で天候にかかわらず執行されるため、水に弱い白木弓は使えません。そこで、騎射弓という塗弓を用います。
▲騎射弓(拡大)
古式では日常用いている弓をそのまま使ったようですが、これはひとかどの武士なら戦用の塗弓を持たぬ者はなかったからでしょう。
現在の騎射弓は、白木弓にびっしりと隙間無く糸を巻き付け、その上から黒漆を塗り込めて作ります。籐は上下の切詰と矢擦の三所籐です。
矢擦籐は歩射用より特に長く丈夫に巻きます。騎射も歩射同様、免許の弓を儀式用として使用しますが、重籐弓等でも騎射用は歩射用より矢擦籐を長く巻くようです。
いずれにしても装束(塗りや籐)が違うだけで、弓そのものは歩射と変わりありません。
峯 茂康 | 2004/12/01 水 00:00 | comments (1)
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