home >  弓道四方山話 > 巻の拾弐 「文の巻」

12-15 竹林射法七道の序文

昭和6年頃の同志社大学弓道部師範の故小林冶道先生の「竹林射法七道」については以前に書きましたが、その序文がすばらしいので、現代風に訳してみたいと思います。

「弓を射る者はまず必ず礼をもって行うことを第一とし、その身だしなみ、態度を整えることが先決である。これは弓道を学ぶ精神を養うためであり、射術の本旨はその精神のもとに鍛錬を重ねて、身体の剛健を願い、武道の気風を高めんためにあるのである。

したがって修養における身振り動作はすべて礼によらざるものはなく、その徳儀のきわみはすなわちその人格の反映に他ならない。

射を習うにはその人の資質の能不能(器用不器用)というものがあるが、それはその人ごとにそれぞれ異なるものであり、練達の大器となるのはただ修学(修行)の工夫、努力によるものであり、けっして能力の高さによるものではないといえる。

心を養い、身体を練るというのは、口では言えても行いにくく、その道理を理解できたとしても、その実が伴わないことが多い。しかし、修養をつんで、この真理を極めることができれば、森羅万象のことわりはすべからく一つに帰し(万法一に帰す)、弓を知るは弓を知るにとどまらず弓を知りて礼を知り、徳をわきまえて、正と不正とを己の心に映しだし、明鏡に映すように自己を反省できるようになるのである。

これをもって射は仁の道といい、君子の争いといえるのである。この高遠なる思想はただ弓道によってのみ体得できるといえる。

うち志正しゅうして、そと体直くなるゆえんである。これはちなみに一芸の射術によって徳育と体育との両立をきするものであり、どうしても修行に励まざるおえないものである。」

この序文は「礼記射義」の精神と「四巻の書の序文」の修学の心、これに松戸弓道場の額にある「万法帰一」を加えた格調高いものになっています。

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