home >  弓道四方山話 > 巻の拾壱 「流水の巻」

11-8 吉野山で雪中弓道合宿

2004年3月6、7日は、奈良の吉野山の竹林院に名古屋の弓仲間と弓道合宿に行ってきました。吉野山は桜の花見で有名ですが、一寸早かったので桜吹雪ではなく本当の吹雪の中の合宿となりました。雪が10センチほど積もって、竹林院門蹟、庭園(千利休築庭の群芳園)は幻想的で、まるで水墨画の世界でした。また豊臣秀吉がお花見に来た時の、道具や屏風など国宝級の宝物が陳列されていました。

弓道場は30年ほど前に建設されたもので、あづちは硬くなっていて、少しあれていましたが、竹林に囲まれて、とても落ち着いた環境でした。しかしこの2日間は雪が降り続き、雪の中に埋もれて凍えながらの弓道鍛錬でしたが、お互いに指摘しあって、充実感のある合宿となりました。

この合宿は竹林流の源流を訪ねるのが目的でした。訪問する前の調査では竹林院には大弓法師が居たと言う伝説はあるが、竹林坊は後年名古屋の清洲に移り住んで死去しているので、その僧侶が竹林流の流祖であると言う確証がないとのことでした。

竹林坊と霊弓
▲竹林坊肖像と伝説の霊弓

しかし、宿の長老(90歳で先代の院主)から竹林坊如成(豊臣秀吉の頃の人)が竹林院の第23世院主の尊祐であったという証拠の数々を見せてもらい感動しました。

掛け軸の竹林坊の肖像画は目がぎょろりとしたやかん頭で雪舟の達磨大師のようであり、漫画のような絵でした。重要文化財級の絵であろうと思いました。弓道書としては四分冊の弓道書がありましたが、それは千ヶ条の弓道書(なぜか小笠原流と思われる)であり、四巻の書(一遍の射)はありませんでした。しかし、もっと探せば、竹林流の奥義書(四巻の書・一遍の射)が見つかるかも知れないと思いました。

また、吉見順正(射法訓)の外孫の須藤という人が、明和7年3月に、今回の我々のように竹林院を訪ねて竹林坊の肖像画や剛弓(霊弓)を拝見して感動したお礼の手紙がありました。吉見台右衛門(順正)、和佐大八郎の名前が出ています。これを見て、我々一同は竹林坊が尊祐院主であることを確信できました。

この手紙の文章で、自分を「拙者」ではなく「僕」と現代風に云い、また「弓術」ではなく、「弓道」と記しているのは一寸面白いと思いました。そういえば、吉見順正の「射法訓」の前文は「そもそも弓道の修練は」という書き出しで始まっています。竹林流では当初から「弓道」と言っていました。ともかく、この人は吉見順正の孫であるので、江戸時代中期の古い手紙であります。

竹林坊が引いていたと言われる伝説の剛弓(霊弓)は外竹が少しはがれていましたが、飴色に輝き、400年のつやとこくがでており、弓を手に取ってみて感動しました。弓は幅も厚さも約一寸二分(約36mm)あり、真四角で恐ろしく太いもので、私では指が届かず握れません。よほど手の大きい人でも握れない太さであります。

弓の強さは幅に比例し、厚さの3乗に比例します。私の弓は幅が28mm、厚さが六分(約18mm)で強さが約20キロですので、この弓は推定約200キロ以上の強さとなり、おそらく史上最古にして、最強の弓でしょう。しかしここまでになると実際に引くのは無理のように思われるので、これは実際に使っていたものではなくて、奉納されたものが伝説の弓となったのではないかと想像されます。

こんな素晴らしい弓道合宿でしたが、宿は昭和天皇陛下が宿泊されたこともある由緒正しい国際観光旅館であり、料理は美味しいボタンなべ、お風呂はこじんまりとした露天風呂まであって、係りも親切、サービスも満点で大満足でした。

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