home >  弓道四方山話 > 巻の拾壱 「流水の巻」

11-1 流派の系譜

古い時代の弓道は神道流、日本流(やまとりゅう)、逸見流があり、鎌倉時代に源氏の武田流、小笠原流がでました。小笠原家は足利将軍家、徳川将軍家の弓馬の指南役として、武術と礼法を教える文武両道の家柄であり、古い射法ながらとくに射礼の面から現代弓道においても指導的な役割を担っています。

室町時代に、日置弾正正次が確立した日置流(のちに吉田流とも言う)は射技射術理論の精緻さから江戸初期に隆盛を極め、印西派、道雪派、大蔵派、雪荷派などにわかれて発展し、現在も主要な流派であります。また、大和流(やまとりゅう)は江戸初期に森川香山が古来の日本流(やまとりゅう)を研究し、日置流各派、竹林流、小笠原流の長所欠点を探究して、大和流(やまとりゅう)を伝えました。

この日置流には二つの流れがあり、一つは日置弾正が伝えた大和の日置であり、もう一つは日置弾正の弟(と言われる)日置弥左衛門範次が伝えた伊賀の日置であり、尾州竹林はこの流れです。

日置弥左衛門は安松左近吉次に伝授、さらに弓削甚右衛門繁次に伝授されますが、繁次に後継者がいなかったので、その伝授の書は三島大明神に奉納されました。

その後近江の国須恵村出身の北村竹林坊如成という名手が現れ、伊賀日置の書を三島大明神から受け下し、ことごとく熟得し一遍の射を編纂しました。後に石堂竹林如成と言い、竹林流の祖であり、日置流竹林派とも呼ばれました。この流祖は竹林坊といい比叡山、吉野山で修行をした僧侶であったので、当流の極意書は仏教的な思想で書かれています。(吉野の金峯山寺竹林院)

竹林坊如成は次男の貞次に与え、貞次は一遍の射を改訂し灌頂の巻を加えて、五巻の書としてまとめました。これが免許の伝書です。その後、竹林流は尾州藩岡部家(石堂竹林家を補佐)の正統竹林流と尾州藩長屋・星野家の尾州竹林流、紀州藩の紀州竹林流に分かれましたが、藩が異なるだけで同じ伝書「四巻の書」によっており、射法は全く同じであり、ともに三十三間堂の通し矢で競い合ったことは有名です。

尾州竹林流は星野勘左衛門茂則が三十三間堂で天下一となって継承しました。その後勘左衛門茂則の弟子である渡邊甚左衛門寛が印可を得て江戸に伝え江戸派と呼ばれ、その江戸派から明治になって本多利実翁が受け継ぎ、射を正面打ち起しに変えて本多流を確立しました。

自分の流派である竹林流は名古屋でも少数派であり、名古屋以外では殆ど見かけません。これは他の地域に移ると正面打ち起しに転向してしまう人が多いためかも知れません。

現代ではそれほど少数派の流派ですが、射法訓が同じ紀州竹林の3代(中興の祖といわれる)である吉見順正の言葉であり、弓道用語の多く(大三、引き分け、会、離れ、1文字、三重十文字、五重十文字、五部の詰め、四部の離れ、円相、五行陰陽道など)が竹林流の指導書からきていることが不思議でした。

本多利実先生は尾州竹林流から正面打ち起こしに変更しましたが、自ら新しい流派を作ったと言う意識はなく、先生の没後に弟子達が本多流として新しい流派を作り上げたと云われています。

本多先生は竹林流の「四巻の書」を整備、解説され、印刷して近代の弓道として、東大、教育大、学習院などで多くの優秀な後継者を育成したので、本多流の隆盛ばかりでなく、日本弓道連盟の中心となったと思われます。

その結果として尾州竹林流は少数派ですが、四巻の書の教えは本多流を通じて弓道教本のなかに取り入れられて、全国標準になったと思われます。少し言い過ぎかも知れません。

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