home >  弓道四方山話 > 巻の拾 「未来身の巻」

10-7 悪癖の治療の冷熱について

悪癖の治療は、何の基準、規矩から狂っているか、その根本原因を突き止めなければ、処方箋が出せないし、これを誤ると、指導される射手は悪癖がこじれてさらに難しくなり、かえってひどいスランプに陥ってしまいます。指導する人はその問題点の原因を的確に把握できなければ、指導すべきではありません。

治療には医者と同様に、薬で治す内科療法と、荒療治である外科治療とがありますが、外科療法は初心者以外では行ってはならないと考えています。中級、あるいは経験年数が長く、体に悪癖が染み付いてしまった人には外科的に、全く違った正しい射法を教えてもかえって悩み苦しむだけで無駄なことです。

射を改善するには、中りや過去の癖を捨てて一から出直すべきであると考えている指導者が多いですが、私はその考えには賛成できません。癖の指導に手を加えて射形を改善しようとすることについても同様の考えです。

その人の射は悪癖も含めて、その人の個性であり、悪癖には悪癖に陥った理由があり、長所もあるはずですので、その長所を殺さないように、内科療法で本人に理解させて治療すべきであり、時間を掛けても中りを落とさない方法で治療するのが、かえって早道であると思います。

ただし初心者では、まだ体が柔軟であり、悪癖も頑固ではないので、正しいものは何かを理解させて、ストレートに指導するのが良いでしょう。この治療法は熱が高い病には熱さましを、低熱の場合には発熱剤を与えるようにすることです。

別の喩えでは、お風呂のお湯が熱過ぎる場合には冷たい水を加え、冷たい場合には暑いお湯を加えるようにするのが良いと教えています。

すなわち、内科療法とはいえ、ぬる過ぎるお湯には丁度良いお湯ではなく、熱めのお湯を加えるように、悪癖の反対の方向に効く薬を処方して、用法、容量を良くまもって治療に努力することが肝心です。

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