5-21 私の竹林懸け
松波さんには私が高校生の頃、しばしばお邪魔して、お茶菓子をご馳走になりながら矢や弓の修理に行ったものでした。およそ 40年ぶりでしたので、当主は代替わりしていましたが、当主もお母さんも覚えていて懐かしく思いました。
松波佐平は江戸時代から続く尾州徳川藩の弓師で、先代のお母さんが竹林懸けを作っていましたが、以降途絶えていたのを最近になって復元して製作をはじめました。これは既製品ながら私の手にぴったりで柔らかく、気に入って購入しました。
また、この懸け(弓懸け、弽、ユガケ)は革を裏返しにして作ってありますので、中が茶色で外側が白くなっています。白は汚れが目立ち易いので、時々中性洗剤を軽くつけて濡れタオルでクリーニングしています。
竹林懸けの特徴は写真に示すように、以下のような点にあります。
三つ懸けで、親指の帽子は指の形に合わせて楕円形をしており、先がやや内側に曲がっている。親指の頭と中指の腹の合わせ部には、最初から継ぎを当てるようにやや滑りにくい鹿革を貼って、摩擦抵抗を高めている。
親指は真っ直ぐ(一文字)であり、弦枕も親指の中央に直角(通常は若干斜め)に付いて十文字。弦枕の位置は、一般の懸けでは親指の付け根あたり(深懸け)にあるが、これは親指の付け根から10mm位の位置、親指の2番目の筋の処(朝嵐懸け)にある。
親指の帽子は背中側がくりぬいて(節抜き)あるのでやや柔らかく、腰革も適度な柔らかさがあり、帽子は親指を反らせることで動かせるようになっている。
柔らかい懸けなので、小紐を弦枕の下に通して襷懸けにして適度に堅くする。
櫻井 孝 | 2006/12/11 月 00:00 | comments (2)
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コメント
現代の弓道も竹林流の伝書に定められた「五重十文字」を射技の基本に位置付けており、この2番目(教本では3番目)が「馬手の親指と弦の直角」ですが、ゆがけの製作は懸け師に委ねられているので、これを行うのが難しい場合があります。
特に、四つ懸けなどのように弦枕が斜めとなる「大筋違い」の場合には、親指は弦に直角ではなく、斜めになり五重十文字が狂いやすいので要注意です。
竹林懸けは三つ懸けで、弦枕は直角であり、付け根から10mm程度離れたものは「朝嵐」と呼ばれ、自然な離れが出やすいと思います。
引き込みの途中はしっかり弦を保持しており、離れでは銃の引き金を引いたように何の抵抗もなく、矢は放れていきます。尾州の知恵が凝縮されていますね。