home >  弓道四方山話 > 巻の五 「母の巻」

5-22 妻手にも脈所がある

「脈所」という言葉は、医者が手首の脈を診て病気を見抜くことから、物事の肝心なポイントを掴むことと思います。弓道では「剛弱所(ごうじゃくどころ)」という言葉があり、弓手(剛)の働きのポイントは手首の脈所の微妙な効かせ方にあると云われています。本来ならば「剛脈所」と云うべきですが、伝書に「押手を上(下)に過ぎれば上(下)に弱り、前(後)に過ぎれば前(後)に弱る」と言う言葉があり、語呂合わせから「剛弱」と呼ばれたと思われます。

一方、妻手の脈所は「強搦(つよがらみ)」と云われ、これらについては既に巻の六「剛弱、抱惜、強搦」に書きました。また「円相の構え」、「幼子を抱える」、「半捻半搦」、「会」などにも同様のことを書きましたが、年寄りの戯言としてくどくどと書いてみましょう。

「強搦」とは「つよくからむ」と読み、妻手の捻りの程にも適度があり、脈所の微妙な効かせ方がポイントであると思います。

このとき妻手の手首の脈所を外側に曲げ過ぎれば、手首に力が入り、肘が収まらず、伸びも働きもなく、離れが出難くなります。

内側に曲げ過ぎれば、肘は大きくなりますが、弦が懸口から外れ易く暴発の恐れが生じます。また、上に曲げ過ぎれば、凹んで小さく働きがなくなり、離れも緩み易くなります。

下に曲げ過ぎれば、手繰り形となり、筈こぼれ、矢口が開きやすく、妻手が勝って片釣り合いとなります。

すなわち、妻手の親指の中筋を弦に直角に(一文字に)懸けて、中指の第2関節と第3関節との中間の腹で親指の頭を軽く結び、人差し指を軽く添えて矢を育むのです。これは五重十文字の2番目であることは云うまでもありません。

「矢をいとしい幼子と思い、丸く柔らかく、かき抱く」のが会の和合であり、円相の心であり、妻手の脈所です。

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