home >  弓道四方山話 > 巻の六 「掛け橋の巻」

6-3 引き分けを返して打ち起す

竹林派の伝書(本書)を読むと、打ち起しの段階で弦道の意識をもち、会の働きを引き分けに返し、弓構えに返して行いなさいと云う主旨の記述が出てきます。

射法七道(弓道八節から残身を除いたもの)の解説において、

1. 足踏みのこと
2. 弓構えのこと
(ただし現代の弓構えでなく、弓と矢と拳で的を差す「墨指しの曲尺」のことで、足踏みのあと巻き藁でやるように弓で方向を確認すること)
3. 胴造りのこと
4. 引き取りのこと(引き分け)
5. 打ち起しのこと
6. 会のこと
7. 離れのこと

となっており、打ち起しの前に引き取り(引き分け)があり、順序が弓の順序と違っています。この事は伝書の文章の中で、「打ち起してから引き分けるのに、本書には逆の順序でかかれているのは、本書(竹林坊が書いたものに受け継いだ人が注釈を加えている)を受け継いだ人が頁を間違えて写して伝えたのではなかろうか」と吉見順正(射法訓の)に問うています。

吉見順正の答えは「誤って前後したものではなく、胴造りが終わったならすぐ引き分けの気持ちをもって打ち起しを行うものであり、引き分けから打ち起しに返すことが肝心である。従って、この順序で良いのだといっています。

竹林坊は徳川開幕の頃の人、吉見順正はその3代位後の紀州竹林の人(射法訓)ですが、もうこの時点で書き写し間違いがあったと思われますが、説得力のある強弁が正当化されてしまった(無理が通れば、道理が引っ込む)ようです。

それにしても、会の形を覚え、弦道を戻して大三、更に返して打ち起し、取りかけに至るのは竹林派だけでなく共通の極意でしょう。

註)
「本書」は尾州竹林流江戸派の道統であり本多流の始祖でもある本多利実翁が、尾州竹林流の「五巻の書」を整理して弓道の近代化のために出版させたものであるが、どういうわけか尾州竹林の伝書ではなくて、紀州竹林の伝書のように思われる。「射法の順序が違うのはなぜかと吉見順正に相談している」と言うくだりから紀州の伝書ではないかと考えられる。もともとは竹林坊の著作であるので、同一のものであるが、尾州竹林では星野勘左衛門などが注釈を加えているのに対して、紀州竹林では吉見台左衛門経武(順正)などが注釈を加えて、それぞれが代々書き写されて変化しているので、微妙に異なり、解釈も異なっているところがある。 この「引き取り」の言葉の解釈が異なっていることが後で判明した。

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