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3-26 弓道は天邪鬼

弓道は天邪鬼ですので、まじめに一生懸命になって、追いかけると恋人はそっけなく逃げてしまいます。自由気ままに祖卒なお話を書きます。

1.無になってはいけない


弓道では禅的な思想から、般若心経のように心を無にして、煩悩を去り、何も意識しないで行えといいます。

しかし、それは達人がここ大一番に一箭を尽くす心境であって、凡人が行射するときのことではありません。

凡人が無になると、早気になり矢は頬に着くや否や勝手に飛び出します。また弓に負けまいと思う気持ちが縦横十文字を狂わせ、射法の基本も崩れてしまいます。

弓道では自分の欠点を直すため、種々の努力が大事であるのに、意識を無にすると全てが白紙となってしまいます。

2.会を保ってはいけない


会が短いのは「見る会もない」と云い、引き分けて会に至ったのち、少なくとも五秒程度は保って、詰め合い伸び合いの後に、自然な離れを鋭く出しなさいと云います。

しかし、これができるのは達人の技であり、会の状態をただ単に保とうとするとき、伸びる主動筋の働きに固定する拮抗筋の働きが釣り合って、膠着状態になりやすいです。これは自分のような高齢者では、頑張れば頑張る程固まって、緩みとなり、柔らかい離れが出なくなります。

これは保つという消極的なものではなく、幼子を愛しく抱き抱えるような気持ちが良いのです。

3.雨露利の離れはいけない


離れの極意として、芋の葉末に溜った露の球が如何にも自然にポトリと落ちるのを「雨露利の離れ」と云います。

このイメージは如何にも自然であり判りやすいですが、自分の力ではなく何もしないのに自然に落ちるイメージが強いので、消極的になりやすく伸びのある離れには繋がりません。

自然の離れを待っていると、葉先に溜った雨露の球は乾燥して萎み、もたれとなって自然な離れはでなくなります。露の球が膨らむためには、水蒸気の補給でじわじわと膨らむように、会での縦横十文字がじわじわと膨らまなければいけません、これが伸び合いです。

4.角見を効かしてはいけない


和弓では矢を右に番えているので、真っ直ぐに押し引きするとき、弓の半幅の分だけ矢は弓の右側を擦って右に飛び出して行きます。

アーチェリーでは矢が弓の中央を通るように弓の幅を切り込んで加工していますし、ゴルフのパターでも力が中心を通るようにシャフトを曲げて工夫しています。

日本弓道では弓を合理的に加工するのではなく、弓の偏芯分を技術で克服して真っ直ぐ飛ばす射法です。

弓手手の内は親指の付け根の内角を角見と呼び、ここを働かせて押すとき、弓の半幅分を捻る働きができて、親指の上に載っている矢を真っ直ぐに飛ばすことが可能になります。しかし、引き分けや会に至るとき「角見を効かして」弓手手の内を押し込むと、手の内は捻りに耐えられずズルッと滑り、捻りが消滅して効かないものとなります。

5.弓手は強く握ってはいけない


弓手手の内は柔らかくして自然な弓返りをするのが三段以上の条件ですが、これは決して手の内を緩めて回すのではなく、弓が落ちて下がってもいけないし、弓が暴れてもいけません。

6.極意の手の内「らんちゅう」、「ああ立ったり」


伝書には五箇の手の内と呼ばれる極意があります。このうちの「鸞中、卵中(らんちゅう)」と云って、大鷲が卵を握るように、あるいは雛をかき抱くようにと云います。卵は強く握るとき割れてしまいますが、緩すぎると落としてしまいます。雛も強く抱き過ぎると死んでしまいます。しかし大鷲のがっちりとした手で優しく握ることです。

別の極意の手の内に「ああ立ったり」と云って、赤ちゃんが椅子などに掴まり立ちするときのような握りがあります。柔らかいながら確りと握って働きがあるので、「老いて乳飲み子に教わる」と云います。

7.胸の中筋より宜しく左右に放つべし


胸の中筋より左右均等に離すのは縦横十文字に叶った均等の離れであり、船に乗り竿を挿した時のように、船と岸はさっと別れるものです。

しかし、会の位置では矢は頬付けに付いているので、両肩を結ぶ線とは約13僂曚描位未砲△蝓大離れで弓手も馬手も大きく矢筋方向に開くとき、両腕は惰性で両肩を結ぶ線上まで開いて止まるはずです。しかし、弓手は振り込んだり、捏ねたりするのは駄目で、全く微動だにしないのが良いのです。これも矛盾です。

8.弓手は留めて、馬手は大離れとする


会では親指の上に矢が載っていますので、離れの瞬間に弓手も馬手も全く動かず、肩も胸も不動のまま離れることは的中の必須条件です。

これは上記7の項と矛盾しますが、両肩関節に載せるように矢筋に近づけて、離れの方向を接戦方向に左右同時に働かすことができれば、会が割れて矢が飛び出した後に、惰性で一直線に伸び、弓手は留まり、馬手は真っ直ぐに飛ぶので、矛盾ではなくなります。

9.離れの要領は両手を同時に指パッチンで握る


手の内は大三で基準の形ができたら、そのまま捻り入れず、角見は「弓の角から見るだけ」にして、丸く柔らかく握ったまま的方向に真っ直ぐに押す。

離れの要領は、会の伸び合いの後に、両手の内で同時に親指を指パッチンで撥ね、その位置のままで人差し指を握り込むように、矢筋方向に伸びれば、角見は自然に働くものです。吉田能安先生の弓道いろは歌に「受けて張れ 手先で弓を 捻るなよ」とあります。

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