home >  弓道四方山話 > 巻の八 「石火の巻」

8-1 離れ

離れについて、教本では詰めあい、伸び合いの充実に加えて、気合の発動によって自然に離れてゆくのが理想であると書かれています。誰も妻手でぱっと離せというような下品な解説はありません。

しかし、気合の発動だけでは離れは出ません、弦に絡めた親指が絞り込んでいる間はロックされていますので、これをフェザータッチで開放(リリース)して弦が親指の溝から分離したとき初めて離れとなります。すなわち指に接着剤を塗ったら、離れは出ません。

1)グー、チョキ、パーの離れ

離れ口をスローモーションで考えて見ましょう。会では途中で外れないように、妻手を左回転の絞りによって溝にロックすることで安心して引き納めることが出来ます。気が充実して、離れる瞬間には、懸けの親指と中指(薬指)の間が開き弦が分離するのですが、妻手を絞ったままでは溝に絡まっているので、手の平を大きくぱっと開かねばならなくなります。これがパーの離れです。

このとき懸け解きによって、指先の力を抜いてぴっと離すのがチョキの離れです。

さらに、解ける瞬間に絞込みの反動でぱちんとはじけるように指パッチンで握りこむのが、グーの離れです。これは懸け口が絡まっているのを、丁度知恵の輪のように、するっと解くことが出来、握ったままのように見えます。この離れを出すには、会では親指を伸ばして一文字とし、中指もなるべくのばして親指を軽く抑え、人指し指は中指に添えるのが良いです。このときの形は兎ににており、チョキからグーになります。 少し表現が下世話でしたが、緩みのない、軽い離れを出したいと思います。

2)軽妙な離れについて

理想の離れは、四部の離れ、鸚鵡の離れ、石火の離れ、あるいは雨露利(うろり)の離れと云い、いずれも自然な、軽妙な離れといえます。

うろりの離れは芋の葉に露の水滴がたまって、ぽとりと落ちるようなイメージであり、黄桜の呑のように酒の雫が落ちるのではありません。

この離れは静的な感じがあるので、会の釣り合いの中で、力を抜いて軽く離そうと考えるのは大きな間違いです。

軽い離れを出すためには、胸の力、両肩の力、肘の力、両手の内の力は抜いてはいけません。これは五部の詰めでなく、五部の緩みとなり、離れがしぼんでしまいます。いくら待っても離れず、たまった露は乾燥して、落ちなくなってしまいます。

軽妙な離れを出すためには、必要な力は保ちながら、指先や手首を楽にして、懸けを一瞬にするっと抜いてやるのがコツであると思います。

古い書物では、「離れをば弓にも身にも知らせぬが良き」と云っています。この意味は一寸判りにくいですが、「離れの瞬間は弓も体も気が付かないくらい無意識に離れてしまうのが宜しい」と解説されています。

ただし、腕相撲のように腕力に頼って引いている場合は、手繰り弓であり、押し引きが相克してどこまでも頑張るので、軽妙な離れが出なくなります。 これも力を抜くのではなく、適正な矢束を見つけて、骨に嵌めるコツ(骨法)を掴むように心がけると良いでしょう。

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