小笠原流弓と礼のこころ
小笠原流弓と礼のこころ
春秋社
小笠原流宗家(弓馬術礼法小笠原教場三十一世小笠原清忠)著。一子相伝800年の小笠原流の歴史や稽古法などについては40年程前に先代宗家の著した書があるが、本書では加えて武家社会終焉以来の「家業を生業とせず」という家訓を守ること、そしてこの平成の世で礼法のみならず弓馬術の流儀を守ることへの矜恃が綴られる。また「聞かざれば教うるな(質問がなければ教えるな)」という小笠原流の教授法は門人なら知らぬ者はないが、本書ではさらに「上達したければ教えるな」という見識が語られる。教わる者の未熟な技を見せられると、逆に教える側の自分が知らぬ間にそれに染まってしまうのだという。これは潜在意識への悪影響なのだろう。確かに、教えても教えても上達しない者がいると、それは自分の教え方が悪いのではとこちらが逆に反省してしまうことがある。このネガティブな心理状態が自分の上達をも阻害してしまうという心理療法家の知見を目にしたことがある。そして本書の読みどころはもう一つ、若先生(宗家嫡男)の手記である。青春真っ只中の青年が800年の歴史を背負っていこうとする苦悩と決意が読み取れる。実に爽やかである。
峯 茂康 | 2008/07/09 水 00:00 | comments (0)
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