手袋考6「強弓」

2016/10/06 木 22:04
峯 茂康



この弓を張台にかけたとき、柴田勘十郎師の身体が床から持ち上がる瞬間もあったとのことですが、日本人壮年男性の平均体重(70キロ)で何とか弦が張れるのだとすると、弓力50キロの弓に弦を張るための張力は70キロ=弓力の1.4倍。これを五人張りの弓に当てはめると、50〜110キロ/1.4=弓力71.4〜78.5キロということになります。

櫻井先輩によれば(弓道四方山話2-1)弓の強さは弓の幅に比例し、弓の厚さの3乗に比例するとのことなので、七分五厘で50キロだとすると、71.4キロ(弓力1.42倍)で手幅が同じ弓の厚さは約1.13倍になるので八分五厘ほど。78.5キロ(弓力1.57倍)なら厚さ約1.16倍になるので八分七厘ほどです。ちなみにこの計算だと寸弓(厚さ十分)は弓力120キロにもなってしまいます。

また、一般的に六分でおおよそ弓力20キロとも言われますから、そうすると71.4キロ=弓力3.57倍→厚さ約1.38倍になるので九分二厘ほど。78.5キロ=弓力3.925倍→厚さ約1.58倍で九分五厘ほどです(こちらの計算なら寸弓は92キロくらい)。

それから、自分の体重と同じくらいの弓力までは弩けるという理屈もよく耳にします。通常、両手で鉄棒を握ってぶら下がることは難しくありません。これは片手の四本指で体重の半分を支えている状態です。そして、多少体力のある人なら片手でもぶら下がれます。つまり四本指で全体重を支えられるわけです。ということは(指の力の問題に限れば)四本指で自分の体重と同じ弓力の弓までは弩けるし、体重の半分に満たない弓力なら四本指は必要ないと言えます。

軍弓には精一杯の強い弓を用いたと考えれば当時の体重相当の弓力50キロ前後(八分前後)でしょうか。体重が80キロを超えるような豪傑なら五人張りの弓を弩いた可能性もあるわけです。

また、半士半農だった武士は日常的に鋤や鍬を握って農作業をしていて手指も革固めのユガケ並に丈夫だったでしょうから、軍弓で一度に20〜30射するくらいは手袋どころか素手でも平気だったかもしれません(箙には通常24本の矢を盛った)。

当流の重鎮で「手袋は破れると修理しなければならないが、自分の手の皮なら破れても放っておけば治る」と仰って素手で騎射の稽古をされる先輩がおられますが、噂によれば馬手親指には自前の丈夫な弦枕ができているそうです。しかも射に応じて取り懸けを変えられるように、その自前の弦枕は幾筋もあるとか(私は畏れ多くて見せて貰ったことはありません)。

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