引目籐

2014/01/11 土 15:31
峯 茂康



まず、本多利實翁口述(弓道講義・弓具の部11−12ページ)のように矢摺籐上部を蟇目鏑で打つには鏑が上になるよう矢を弓に添えて持たねばなりません。他流の習いは存じませんが、少なくとも小笠原流騎射では矢を弓に添えて持つ際は羽根が上です。これも陰陽がどうとか矢先はそもそも竹の根なのだから下にするべしだとかと言うまじないじみたことではなく、弓に添えて持った矢を馬上で番えようとするなら筈が上にある方が手に取りやすいという合理的な理由だと私は思います。頭で考えると分かりにくいですが、実際に馬に跨ってみると身体が納得します。

また、小笠原流高弟斎藤直芳氏の著述に拠れば握り下の籐が「引目籐」で、同様に握り下の節は「引目節」です。浦上栄氏の「弓具の見方と扱い方」に掲載された図解も握り下が「蟇目タタキ籐」になっていますし、現代弓道小事典にも握り下と書かれています。

従って(こういう名所は流儀によって様々ですので何が正解というものではありませんが)蟇目叩は握り下ということで宜しいのではないでしょうか。

ただ、この辺りで蟇目鏑を叩いて砂を落とすというような故実を私は知りませんし、それに類する所作も見たことはありません。勉強不足でお恥ずかしい限りですが、蟇目叩籐について改めて現代弓道小事典にあたってみた過程で匂籐とは矢摺籐の上に巻くものだけを指すのではないということを知り、お陰様でこれはひとつ勉強になりました。

匂籐はどれか一つの籐の呼称ではなく、幅広く巻いた籐の脇に添えて狭く巻く籐の総称だそうです。「匂」というのは女房装束の襲の色目(かさねのいろめ)において色の濃淡のグラデーションを指す語です。武具においても鎧の威(おどし=緒通し)に「匂威」というものがあります。これは小札を連結する緒の色の上が濃く、下へいくほど淡くなるものです。古書には「匂重籐」なる記述も見受けますが、弓の場合は色ではなく籐の幅や間隔(寄せ具合)でグラデーションを表現したのだろうと思われます。

矢摺籐の上に巻く籐は「化粧籐」と呼ぶこともありますが、これは「一種の飾りの籐であるから必ず巻くべきものとは限らない」、そして「鏑籐・千段巻・日輪巻・月輪巻・矢摺籐・蟇目叩籐以外に巻く籐は、総て化粧籐と云ってもよいものである」とのこと。つまり、現代弓道小事典に拠れば式の籐以外はどれも化粧籐ということです。

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