2-1 弓の薀蓄
2001/09/03 月 00:00
櫻井 孝
1)弓の形
西洋では弓はアーチ、あるいはボウと呼びます。アーチは放物線形状であり、力学的にすばらしい力があります。アーチを上手に操る人をアーチスト(芸術家)と呼び、建物や橋に応用する人をアーキテクチャー(建築家)と呼びます。
中国の弓は漢字が示すとおり円弧状ではなく湾曲した弓で、すばらしい性能があります。一方日本の弓は、魏志倭人伝に「兵用矛楯木弓(武器は矛、楯、木弓を用いる)」「木弓短下長上竹箭或鐡鏃或骨鏃(弓は上が長く下は短く、竹の矢で、鉄製の矢じりあるいは骨製の矢じりである)」と記されているように、古代(三世紀頃)から中央よりも下のほうを握る射法であったことが判ります。
日本の弓の形を見るとき3つの特徴があります。
まず、弓の弦を外すと逆に反り、裏反りと呼ばれます。これは土木建築の分野ではプレストレスと呼ばれ初期張力を与える手法です。この裏反りはギターの弦を締めるように弓の本来の力を強める働きがあります。裏反りによって弦が戻った時も緩まず、強度を保ったまま返るので勢いがでます。しかし裏反りが強すぎると、弓が敏感になりひっくり返る危険性が大きくなります。
2番目の特徴は弓の字の形が示すように湾曲していることです。これは先ほどのプレストレスが全体的に加えられていたのに対して、3の字状に湾曲して与えられていることです。円弧状の弓では力のかかる握りの部分に力が集中してその部分が折れやすいのですが、3の字状に湾曲させると中央の握りの部分には初期の状態で逆に曲げられているので、その分だけ余裕となり強度が高くなります。和弓の芸術的な完成度の高さはこの湾曲したプレストレスのかけ方にあります。
3番めの特徴は握りの下が短く上が長い点にあります。これについては力が上向きに作用して、矢がホップするため的中にはマイナスとなりますが、高射砲のように敵陣に打ち込むには楽であったのかも知れません。
2)弓の力学
弓の中央を握ったと仮定すると弓の強さを数式で表せば、以下のようになります。
P=24・E・I・a/L^3
注)理科系の方からこの式について質問がありましたので、注釈をします。
土木、建築、機械工学において、中央に荷重が作用するとき、梁のたわみの式は a=P・L^3/48・E・I となっています。しかし弓の場合には矢束は弓の変形の他に、弦が幾何的に三角形に変形して矢束となり、概ね同じ分だけ変形するものとして48分の1でなく、24分の1としたのです。
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