1-22 「中学集」という書物
2007/01/22 月 20:08
櫻井 孝
この書物の題名についての説明はありませんが、私の個人的な解釈では「的中を学ぶ要領集」というような趣旨でつけたものと思われます。その意味では俗っぽい題名ですが、真の的中を求めるためには目先の中りを追うのではなく、曲尺(基本原則)を守ること、息合いや気を収めることが必須であると記しており、なかなか味わいのある書物です。
現代弓道では、一方で精神性こそ最も崇高であり、的中を追い求める事は卑しいことと軽蔑される面がありますが、実際には競技会の成績においても審査においても的中が伴わなくては評価に至らず、人に感銘を与えることも、まして自己自身で満足することはできません。もともと弓道は「中・貫・飛」という目標を如何に自然なように達成するかにあり、現代では貫・飛はありませんので、真面目に的中を学ぶというのは素直に目的を求めるという点では正直なことであると思います。
ではこの本を読めば的中の要領が判って容易に的中が向上するかと云えば、否です。この本に書いている的中のための原則(曲尺)と言うのは、現代の弓道教本に書いているのと同じで、射法・射技の基本、心気の働き、総体の均衡などであり、これはそう容易く達成できないからです。
私の手元には2冊の「中学集」があり、若干記述は異なりますが、ここでは本多流生弓会が出版した「尾州竹林派弓術書」に纏められたものを中心に記述します。
竹林坊如成が書いた本文は極めて簡潔で味わいの深いものですが、解釈が難しいので理解し易くするために一字下がりで石堂竹林貞次が註釈を加え、さらに二字下がりで瓦林與次右衛門が註釈を書き加えて伝えられたものです。巻末に竹林坊如成から貞次へ、貞次が瓦林に与えたこと、瓦林が註釈を書き加えたいきさつが記述されています。
この書物は始めに目録(目次)があり、内容が頭だしで一覧できる構成になっています。構成は13か条で、さらに各条に小目録(細目)があり、計40余か条について射法の要点を記述しています。
四巻の書には格調高い序文があり、修行にあたっての誓約、修学の心得、印可などについて記述した後に、本論では射法七道、弓道教歌、心気の働き、五輪砕き、奥義について、修行の段階に応じて総合的に記述しているので、弓道における経典、規範、あるいは弓道教本のような教科書といえるものです。
これに対して中学集は上述のように序論はなく、射法の要点について短刀直入的に箇条書きで記述しています。これは四巻の書を補足するために記述されたもので、射術の全てを網羅するものではありませんが、その説くところは微に入り細を穿ち、射術の堂奥を窮めんとするものです。すなわち基本的な知識を有する者に対して、その要点を覚えやすく取り纏めた受験勉強の参考書のようなものと考えられます。
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