10-11 早気の克服

2006/12/29 金 18:01
櫻井 孝



「早気」とはただ「早い」だけでなく、「気」の問題すなわち「心」に関連し、個々の本人がどのように自覚して、自分でコントロールすることができるかにあるので、なかなか一筋縄では捕らえられません。

1. 心身の問題
弓道は精神統一の武道であると全くの門外漢でも結びつけるし、オイゲンヘリゲルと阿波研造の「弓と禅」ではないですが、「的を狙うな」「無心になれ」「満を待つ」「万法帰一」のように精神至上主義が良いのだという風潮があります。しかし、オイゲンへリゲルのような短期間の修行者では、達人のみが達成できる悟りの境地に入れるとはとても思えません。

的に向いていない矢はどんなに優れた釣り合いのとれた射であっても的中するはずがありません。また、ただ無心になってじっと耐えれば、露がポトリと落ちるような離れがでるわけではありません。露が乾いて落ちなくなると、緩みや持たれ、ビクリが出てしまいます。「無念無想だけでは離れますまい」と本多利実翁も述べています。

私が言いたいのはそのような精神至上主義ではなく、射技・射法の基本原理を理解して、骨格や関節・筋肉の正しい使い方を習得し、それをどうすれば最も安定してコントロールできるかというところに心的安定性が入ってくると考えています。

これは他のあらゆるスポーツなどでも同様であり、合理的な理解と鍛錬があった上で一段と高い達成を求めるときにさらに強い精神性が必要になるのだと、先日のフィギュアースケートのファイナル選手権で感じました。

吉見順正は射法訓の前文で「そもそも弓道の修養は、動揺つねなき心身をもって行う業であり、(略)心技体の三界にわたり相関連して千種万態に変化するので、(略)容易に会得する事はできない。ただ己を反省して、心・身を正しく、正技を練り、修行に励むの一途あるのみ(略)」と述べています。すごい文章です。

弓道四方山話の1-10「射法訓に前文がありました」でよく味わってください。また、1-8「夢中と覚醒と無念無想」も同様の趣旨で書いたものです。

2. 早気について
さて、早気については10-3「三病について」に一寸私の考えを書きました。

初心者の間は意識して離れを出しているので、早気は深刻ではありませんが、慣れてきて上達するに従い条件反射的に離れが出るようになります。こうなると中りも出て、活躍でき最高になりますが、早気に罹りやすくなります。新人では練習熱心で、離れが良く、上達の早い人ほどかかりやすい病気です。

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