8-17 四つの離れ(切、払、別、券)のこと

2006/06/15 木 00:00
櫻井 孝



「目当てに用ふる四部の離れという心は四箇所にあるぞ。先条(会)で記述した五部の詰めの一ヶ所(胸)を楔と心得て(打ち込んで)、両肩と押手の剛弱、馬手の肘の四部を鉄石相克して石火の出ずるごとく離れるを四部の離れと云うぞ。これは総体の離れであり、これに切、払、別、券という四つの離れの口伝がある。これはみな了簡(場合によって用いる)の離れである。以下略」

四つの離れというのは離れの極意を言うものではなく、射の形態によって使い分ける離れの種類として説明されています。実際のところ自分にはその区別は良く判りませんが、星野勘左衛門の注釈により、我流の解釈をしてみます。

はきる離れであり、勢いのあるものである。左右にりきみなく剛を含みて石火の出るごとく離れるこころであり、手前詰まる(両手を詰めた小離れか)離れである。これは抜物、堅物(甲冑)などを至近距離から打ち抜く業であるので、気合を込めて電光石火の瞬時に割る鋭い小離れであろう。

ははらう離れであり、肘力に心をつけるべし、これは遠矢を射る離れである。これは左右を引き合ってよく伸びる離れで、手前を大爽に(両手を大きく)射るなり。遠くに射流して用いるものである。遠矢とは距離を定めた的に当てる競技ではなく、飛距離だけを競う技であるので、大きく払うように開いて矢に勢いを乗せる大離れであろう。

はわかるる離れであり、剛の口伝があるように、押手の強さを主とするものである。これは矢が走る離れであり、指矢(さしや:堂射、三十三間堂の通し矢)に用いるものであり、左右へさっと別れるを云う。肩収まる骨早く満ちて一杯に離る骨法であり、活々としたるところである。ゆえに矢は直に出て矢のりに格別なものがある。矢は低く出て遠く送る。矢勢は稽古鍛錬の上にて知るべし、信ずるべし。堂射は120mの距離を軒の梁(3.5m程度)に当てずに低い角度で射通した本数を競う業であり、勢いと正確性と矢早が要求されるので、両腕、両肩がバランスよく別れ飛ぶ大離れであろう。

はちぎる離れである。これは強引に引きちぎるのではなく、約束とか契約と云う意味であり、左右に偏らず、正直(正しく真っ直ぐ)で、近的に用いるものである。これは左右よく引き合いたるまま、胸の楔・雁がねの骨相(肩甲骨)をよくつり合わせて、双方少しも乱れのないように、曲尺を合わせて、証文を交わすように察知するべし、おのずから離れるが随一である。これは正射であり、的前(28m)に用いる基本的な離れである。これは全ての規矩を合わせて和合した後、両腕、両肩がバランスよく自然に離れた中離れであろうと思われる。

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